2016/10/22

白金温度センサで簡易温度測定

白金温度センサ(RTD)は温度係数が規格で定められているので、アナログ回路を積む余裕があって、広範囲の温度を測定したいときに向いている。 
素子部がシンプルであることを除けば、ワンチップの温度センサICのほうが楽に測定できてお得なのだが、その場合電源のための配線が増えてしまう。 2線式でよいアプリケーションでは、電流駆動のみで単純化できて、NTCサーミスタのような複雑な換算も不要になるというメリットがある。

DigikeyでVishayのチップRTDを見つけて、下駄基板を作った。 データシート上では、-50℃から150℃程度まで、換算表が記載されている。 
被測定物に接着することを想定し、5mm角で、1608と3216のパターンをつなげただけのもの。 どちらかに素子をとりつけ、ハーネスを半田づけする。 基板は0.6mm厚で発注し、表裏はVIAとパターンで熱を伝えやすくしておいた。 



RTDには定電流ICによる1mAを与えて、出てきた電圧値を非反転アンプで増幅する。
素子の物理的サイズよっては、1mAも与えると自己発熱が高精度測定を邪魔するようなので、高精度測定では500μA以下に絞ると良さそう。

測定回路は自作のPIC32MXボードにつないだ。 ADCは10ビットで、2048mVの基準電圧(REF3320)を参照させる。 
簡易構成用に0.1%精度の100Ω抵抗を買っておいた。


試験として、冷却スプレーを吹きかけて応答を観察してみた。

冷却スプレーといっても、自宅にあったのはフマキラーの凍殺ジェット。
代替フロンとジメチルエーテルによる気化冷却方式で、殺虫成分は含まれていない。 回路基板の温度試験用の冷却スプレーとほぼ同じ使い方ができると思う。
入手性が高いのもポイントだ。
 普段は冷却スプレーでTCXOなどをイジメたり試験しているので、実際の温度変化が知りたくなった。

(換気徹底と、火の気には注意!)

まず、10cmほど離して素子に吹きかけると、-46℃を記録した。 製品は気温30℃から-85℃下げられるとあるので、近いところまで下げられているようだ。 
あまり近すぎたり、吹きかけすぎても冷媒が気化できずあまり温度が下がらない。 塗装のコツと似たような雰囲気


20Hzで応答を観察してみた。 
高速応答をみるなら, 細いワイヤに素子を直接半田して熱容量を下げるのが良さそうだったので、新たに用意。

モニター画面はMegunoLinkというArduino向けデスクトップ測定/制御環境で、シリアル経由のコマンド発行やボタンGUI等の作成、時間軸/2次元空間プロット等が行える教育向けソフトウェア。 
このような画面も数クリックで作れる。
簡単なモニタリングに便利なので、1万円ほどの商用ライセンスを購入して使っている。 (ホビイストライセンスは安い)
とりあえず時間軸プロットを行うだけなら、指定された定型文と一緒に数値をシリアル経由で送信する。 測定項目ごとにチャンネル名を付加しておけば、自動で個別データとしてプロットしてくれる。


今度はADIのアナログマルチプレクサによる多チャンネル測定回路を組み、
ハーネスの先で空中固定したRTD0(赤)
回路基板上のRTD1(ピンク)
回路基板上の校正用100Ω抵抗(緑)
の応答を測定している。 

電流源を一つだけにしたので、測定値にはマルチプレクサ内のオン抵抗が加味される。
測定回路の診断の意味で、100Ω抵抗を接続したchを元にオン抵抗を計測し、ソフトウェア的に除去することにしている。精度を高めるにはオン抵抗の温度係数なども考慮に入れたほうがよさそうだが、ADCの解像度的にそこまで追求していない。 高精度が必要で、基板面積が許すならば、個別に電流源を用意するべきだろう。

温度グラフは一瞬最低まで下がったあと、冷えた基板上で気化できなかった冷媒がゆっくり気化していく過程でもう一つのピークが現れている。 その後は徐々に室温に戻っていった。

数cm角のプリント基板上の素子と、ハーネスの先の素子とでは、接地面の熱容量の差が現れていた。 何の温度を測っているのかを知るのは結構難しい。

2016/10/20

PIC32MMGPLを試す

追記 後発のGPMシリーズが発表された。上位互換になっていて、DMA,I2Cなどが追加されている。 https://www.microchip.com/design-centers/32-bit/architecture/pic32mm-family

PIC32MM0064GPL028を入手してみた。 32ビットシリーズとしては、アナログが強化され、独立した周辺モジュールが多数実装されていて、低消費電力設計になっている。
ラインナップが省ピン構成のみなのと、低価格なところはとっつきやすくて良さそう。
(エラッタリストも少なめ)

 ROM/RAMの容量が控えめだが、CPUコアはmicroAptiv M14k UCコア(FPUなし)を搭載し、命令セットがmicroMIPSになった。 一応メモリ消費は抑えられている模様。
M14kコアなので、製造プロセスはMZと同じなのかな・・・?

足回りはアナログが強化された8ビットシリーズに似ている。 モーター制御向けの波形生成回路、プログラマブルロジックセル(CLC)や、12ビットADCが内蔵された。

 その他、FlashがECC対応だったり、個別にUDID(ユニークデバイスID)を持っていたりと、スマート機器や産業向けの機能が盛り込まれている。

個人的に、HLVDというプログラマブルな電圧検出モジュールが気になっている。 18Fシリーズなどから搭載されていた機能で、バッテリの等の非安定化電圧のスレッショルド検知にADCを使わずに済む様子。 

早速、SSOP28なものをサンプル購入したので、下駄基板を設計してelecrowに発注した。
プロトタイプ用なので、最小限の電源まわりの実装と、水晶発振子のパターンを実装した。

書き込み出来ないんだぜこれ
 基板はきれいに仕上がったけれど、MCLR端子を外に引き出し忘れるという重大な設計ミスが発覚。  仕事疲れでMPが減っているときに趣味設計に走る場合、根本設計のポカミスに注意が必要だ((泣)。
とはいえ小規模試作にしか使わないので、UEWを一本延ばす必要が生じるだけではある・・・。


早速MPLAB Code Configurator(MCC)でピン設定を行い、レジスタをセットしてみた。
Lチカしようとおもい、うっかり、8ビット版での癖で__delay_ms()を呼び出すコードを書いてコンパイラに怒られてしまった。 PIC32ではコアタイマーを利用して実装する必要がある。 これもMCCで設定して関数を生成しておく。
INTOSCを8MHzで動作させ、GPIOをH/Lしてるときの平均消費電流は3mAほどだった。

追記: 最初気が付かなかったが、PIC32MMでは周辺機能にI2Cが無い。I2C接続の機器をつなごうとする場合は気を付ける必要がありそうだ。 一応、32MMのリソース一覧の中にはBitbangのためのコードが公開されている。
 http://www.microchip.com/wwwproducts/en/PIC32MM0064GPL028    "Code Examples" 

また、MCCで生成する周辺モジュールのコードは初期化が抜けてたりするので油断出来ない。

 最近はお仕事でもμAレベルの回路を実装する機会がでてきて、中古で校正済み34401Aを入手して、電流値デバッグをしている。 省エネトレンドの、高クロックでタスクを短時間に終わらせる、みたいな設計思想を試行錯誤していきたい。

2016/10/05

大型パラボラアンテナの時代

昔のSFチックな映像作品だと、やたらとパラボラアンテナが並んでいたものだけれど、その近未来感は、大容量の海底ケーブル、地上回線、携帯電話網に置き換わりつつある。 先進国では、アンテナという用語を、画面隅のピクトグラム以外に意識しない世代が育ちつつあり・・・

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府中には浅間山(せんげんやま)がある。 標高は80mほどだが、林の中は整備されていて居心地が良い。自転車散策の途中で立ち寄ってのんびりする場所の一つ。

整備された登山道を登り、新小金井街道が見渡せる場所に立つと、北西の方角も森になっていて、木立の間から、パラボラアンテナが2基そびえ立っているのが見える。



 写真は4月に撮影したもの。

 もともと在日米軍の通信設備で、調べるといろいろな資料が見つかる。
冷戦当時は全国に同様の中継局が置かれ、専用回線を構成していた。
返還後も解体されずに朽ちるままとなっているようだ。

 このパラボラは、対流圏散乱波通信に使われていた。
見通し外通信の一種で、対流圏で僅かに電波が散乱されることを利用する。
電離層を利用する短波帯などと比べ、太陽活動や季節の影響を受けにくい利点がある。 ただし、減衰が大きいため大掛かりなアンテナと送受信設備が必要になった。

見通し外通信といえば、月を利用するものもある。 文献を漁ると、宇宙開発初期の時代には、NASAが世界各地の深宇宙局の時刻同期をとるために、月面反射通信を利用していたという。 もっとも、当時は原子時計がまだ大規模すぎて、各地に配備できなかったという事情があるようだ。

 こうした設備も、60年代からは衛星通信などに置き換わっていった。
 60年代の通信衛星についてのドキュメンタリーがYoutubeで見られる。 通信衛星といっても、パッシブな風船、エコー衛星と、商業衛星として有名になったテルスターについてのもの。 どちらも初期特有の独特な衛星だ。



 宇宙に中継点を置くために試行錯誤していた時代。 アンテナの形態も、技術や周波数、通信対象の変化で時代とともに移り変わっていく。 最近は老朽化した大型アンテナの解体や、更新の時期にあるようなので、いつまでも建っているとは限らない。

 今後大型アンテナを町中で見かけることはなさそうだけれど、 宇宙の観測や探査機の通信でなら、まだ使う機会に恵まれることがある。 近くで大きなパラボラアンテナをみると、スケール感というか、視覚が騙されて面白い。