・・・・ ・ 2014年の夏も終わる頃、 ひと粒 の人工衛星の軌道寿命が尽きようとしていた。 人工衛星が寿命を迎えるパターンは3通りある。人間が運用を停止したとき、機械が設計寿命を迎えたとき、もはや軌道を維持できなくなったときだ 。 大型の気象観測衛星へ相乗りした軌道投入から半年が経過し、当初400kmあった軌道高度は250kmを切っていた。 低軌道は宇宙空間とされているが、同時に高度1,000kmほどまでは熱圏とよばれる大気構造の中でもある。軌道を変えるには推力が必要だが、ここでは希薄な大気との衝突が抗力を発生させ、軌道高度を低下させる作用をもたらす。 低軌道衛星は高度によって数ヶ月〜数百年といったタイムスパンで空力ブレーキを受け続けているのだ。 緻密な螺旋降下が解けるとき、 遂に軌道は消滅する。衛星は濃い大気圏とまともにぶつかることになり、圧縮された空気が溶鉱炉並みの熱をもつ瞬間が訪れ…。 国際宇宙 ステーションや低軌道の大型衛星は推進系を用いて失った軌道高度を維持できるように設計されているが、小さな衛星はロケットが稼いでくれたエネルギーを失い続けるしかなかった。 もうすぐ、地球は1.5kgの質量を取り戻すだろう。 計画に携わった人工衛星の再突入が迫ったとある夕暮れ。 久しぶりに自宅で衛星追尾をすることにした。 がらくた箱から 手づくりの八木アンテナを 掘り返す。 バルサ材を軸として、ホームセンターで買ったアルミと真鍮の棒をエレメントとして並べた簡素なものだ。何度か自作して、一番コストパフォーマンスが高く、作りやすい素材を組み合わせている。 保管していた 間に曲がったエレメントを一つ一つ手でまっすぐに直す。 こんなアンテナでも、 低軌道衛星が相手なら必要十分な性能がある。 知覚を技術で拡張する遊びは、身体を駆使するのが楽でいい。 見えない衛星を追うために、八木アンテナに型落ちのスマートフォンを取り付けて、 コンピューター支援の照準とする。 アンテナから伸びる同軸ケーブルの先には、ハンディレシーバーを接続した。 装備を身に着け、建物の屋上へ上がる。 頭上には夜空が
kent`s prototyping memorandum