2021/05/31

週末電波天文


自宅で電波観測


衛星運用で鍛えた心眼(?)を鈍らせないために、天体観測の延長で電波観測設備を構築してみることにした。 

 ひとつのきっかけはSkyWatcherのAZ-GTI。自動架台として数kgの物体を振り回せる能力があるのを知って興味が湧いた。
 さらに21cm線専用のLNAを見つけた。SDRのオプションとして製造されたものが、安価に入手できる。
 果たして都市雑音に包まれ、携帯基地局が林立する都市部という悪条件でも検出できるだろうか。
 

装置構成


 先行事例に習い、アンテナと受信系はまず流用で済ませる。



今回の実験における装置構成は以下のとおり。

Antenna: Wifi Grid dish (24dbi@2.4GHz ビーム角は10度ほど)
SDR         : Airspy R2 or mini 
Software  : Astro spy (SDRSharpに付属)



 Wifi用のグリッドパラボラについて。同じスペックのアンテナをいろいろなサプライヤが提供していて、OEMかどうかはわからないが入手性は良い。グリッドなので多少の風があっても安心。21cm線観測だけなら天頂に向けて固定すればよいので、後述の架台は必要無い。
 
 電動架台にはAZ-GTiを使用。アリミゾプレートをアンテナ基部に固定することで、ワンタッチで装着できるようにしてある。構築を始めた当初は入荷待ちだったため、先にAZ-PRONTO(手動経緯台)を入手して始めた。単体入手だと品薄なのだが、入門用の望遠鏡とセットになったAZ-GTeという廉価モデルなら入手しやすい。(機能差についてはこちらを参考  https://syumittoblog.blog.fc2.com/blog-entry-1883.html

 Wifi接続による制御は安定性に欠けるので、有線制御用のケーブルを自作して制御している。通信はUARTなので自作の制御アプリも書きやすそうだ。

 ソフトウェアは、SDRsharpに付属してくるAstro Spyという21cm線観測のためのアプリを用いた。これはAirspyのハードウェア専用。積分する以外の機能は無くてシンプル。
 RTL-SDRで観測するなら、帯域を積分できるソフトウェアが必要になる。

 SAWBirdへはAirSpyからbias-Tee給電している。Astro spyを起動する前に、AstroSpy.exe.configを編集してbias-Teeを有効化しておく必要がある。 有効化したことを忘れてアッテネータなどを繋がないように十分注意すること。
受信系の消費電流は合計で420mA程度だった。

白鳥座方面の21cm線のテスト観測


ベランダにSkyWatcherの三脚を設置し、天頂方向にアンテナを向けて固定した。天候は曇り。 電波観測は星が見えなくても昼間でも成り立つ。
週末の深夜、午後9時から午前10時頃まで13時間ほど連続で観測した。スペクトラム記録は5分積分されたものを、1分おきにウィンドウキャプチャしただけの簡単なもの。
早朝4時ごろ、アンテナ視野(ビーム幅)は天の川を横切っていく。ちょうど電波源として有名な白鳥座領域が通過していった。
起きてから確認すると、1420.5MHz付近に太いピークが現れていた。高調波が多くて心配だったが、テスト観測はあっさりとできた。

本来21cm線は、1420.40575MHzでピークを持つ。スペクトルのなだらかな山は、アンテナビーム幅で捉えられた銀河系の分子雲の領域が、様々な視線速度成分を持っていることを示している。
 100kHzプラスへシフトした分子雲の領域はこちらに向かって秒速20㎞前後で接近しているということになる。 

この観測時のスペクトラムを動画化してみたのが下記になる。深夜から早朝にかけ、12時間観測した時のAstro Spyの画面と、同時刻の空をStellariumで表示し、600倍速で再生している。天頂を天の川を横切る過程と、ピークが盛り上がってくる過程が連動しているのが見える。 5分積分しているのでリアルタイムにはほとんど波形が動かないが、早送りで見るとノイズフロアの高さや高調波の分布がかなり変化しているのが分かる。


早朝のStellarium画面には、素早く移動する輝点がたくさん見える。これは可視状態の人工衛星で、いくつも流れていって興味深い。
大きな輝点が何度か通過していくのはISSで、細かく並んだ光の列は軌道投入されたばかりのStarlinkトレインである。 


ポイント観測

 次はAZ-GTIでアンテナを振り動かしながら、任意の領域を指定して追尾してみる。ちょうど夕方頃にペルセウス椀が見えるタイミングだったので、幾つかの星の領域を追尾してみた。

天頂方向に向けた時。 この時天頂にはめぼしい電波源は無かった。

月に向けた時。 銀経190度付近。ここでも21cm線のピークが観測できる。



地球からみて銀河系の外側、ペルセウス椀にあたる銀経190~210度付近の3つの領域を指定し、グラフを重ねて比較してみた。仰角を下げるごとに地上雑音を拾うのか、ノイズフロアが上がっている。
 この領域の分子雲はみな離れる方向のドップラーシフトを示しているようだ。銀河系の視線速度分布図と比較しても似たような結果になっている。

電波干渉を調べる


ノイズ源の確認作業は推理小説のような側面がある。口径30mのパラボラアンテナから、八木スタックまでいろいろなアンテナ運用に参加したことがあるけれど、ノイズの分布は時間やアンテナの向き、曜日で変化していく。犯人は現場の近くに居ることが多い。
(電子レンジを不用意に開けてはいけない例 https://www.nature.com/news/microwave-oven-blamed-for-radio-telescope-signals-1.17510
 
 外部からの干渉と受信機内部のノイズの二つのうち、受信機に近い場所からノイズ源の探索をしてみる。 まず室内で、LNAの先は校正用のオープン端子でキャップしただけの状態にしたとき。高調波は見られない。


波形の傾きはSAWとLNA由来だった。このソフトは手動ならCSVが吐き出せるので、後からこのデータを元に平坦化できそう。

次は室内に置いたグリッドパラボラにつないだ時。見事な高調波祭り。

 室内で強い干渉を起こしていそうなのはWifi BTなどのISM電波やCPUクロック、USB3.0のEMIなどなど、心当たりがありすぎる。 
 SDRの素子特性や原理上、強力なバンドからのイメージ混信が多めに出てしまう。
(AirSpyのハードウェアはRTL系統よりも多少改善されている)
  

最後に、実験構成で天頂にアンテナを向け、SDRの全帯域(50MHz~1.8GHz)をスイープしたもの。商用周波数、特に携帯電話のバンドが目立つ。SAWBird +H1のデータシートを見る限り、使っているバンドパスフィルタ(SAW)自体は65MHzと広帯域な通過特性を持ったものを流用しているので、青で囲った範囲はそのまま通過している。
実は電波天文で保護されたバンドのすぐ上に携帯のバンド11があり、SAWBIRD+H1では除去できない。 光に置き換えたら、ネオンサイン看板のそばで星を観察しているようなものだろうか。
 こういう環境下で、人類の出す電波より数十dB以上も小さな信号を捉えているのだなぁ…。

所感


 数万光年先の銀河渦状椀の運動が、低軌道衛星の周波数のドップラーシフトと同じ理屈で読み取れるのは個人的には新鮮だった。今回組み合わせたWifiグリッドパラボラとLNAとSDRの組み合わせはお手軽でおすすめ。

 グリッドパラボラの給電部の反射特性をVNAで測定してみると、うまい具合に1.4GHzへも感度があり、SWRも2程度の特性がでていた。Sバンドだけでなく、Lバンドもいけるかも。次は給電部の改造に着手して、高軌道の通信コンステ、GNSSや静止衛星を追尾してみたい。

 AZ-GTIのポインティング精度は、スターアライメントによる補正が前提なので、 昼間や曇り空では難しい。(悪いはユーザー側)
都度構築して運用というスタイルで運用する場合、事前に正確な真北を出しておいて合わせる必要がある。幸いパラボラのビーム幅は10度くらいあるので、それほど神経質になる必要はなさそう。昼であればサンノイズで検証できる。

2021/05/05

最近の基地局

閑話

 近所に某社の4G基地局が生えてきた。柱の埋設を含めて工事は半日程度で終わっていた。今どきの基地局ハードウェアがどうなっているのかを詳細に観察できて面白い。

 構成自体はアンテナ3基クラスタにGNSSアンテナという一般的な構成。腕がやけに太いなと思ったらRTSという電動架台が各アンテナに取り付けられているモデルだった。

Youtubeに開発元のプロモーション映像があり見てみると、遠隔で角度指定して首振りする様子が紹介されている。動いているのをみるともはやロボットである。

 PVで謳われているように、一部で電動架台が採用されるメリットはいくつかある。都市部の基地局設置場所はすでに飽和しているので、後発局の立地は必ずしも見通しが効くとは限らない。近所に背の高い建物が建ったりすれば、伝播環境は変わってしまう。後からアンテナ方向の調整を行うにしても、微調整を人の手で行うのは大変だ。
 開発元は設置から調整までのメンテナンスにかかる工数削減に加え、端末が集中するエリアへの能動的なビーム制御まで提案している。ついでに衛星通信もできたりしないかな…。

 PVを一通り見たあと、静かにそびえる基地局を見上げていると、制御を乗っ取られたアンテナが腕の多い深海生物のようにゆっくりと蠢き始める姿を想像してしまうようになった(終)

2021/02/01

新AVRの内蔵温度センサを試す

 AVRにはADCの内部入力として温度センサが搭載されているものがある。シリコンダイオード方式ゆえに製造工程で特性がばらつくため、個体毎に面倒な校正作業が必要となっていた。

http://ww1.microchip.com/downloads/en/AppNotes/Atmel-8108-Calibration-of-the-AVRs-Internal-Temperature-Reference_ApplicationNote_AVR122.pdf

 新しいmegaAVR-0やTinyAVR-1、AVR-DAはXMEGAの系譜なので、内蔵温度センサの校正係数があらかじめSignature ROW領域に記述されている。これを読みだしてキャリブレーションを行う手順がデータシートに記述されていたので試してみた。

 Arduino Nano Everyで試せるサンプルスケッチ。

  https://github.com/kentN/samplecodes/tree/main/Arduino/NANOEVERY-TEMPSENSE


IDE付属のシリアルプロッタでモニタしてみると温度グラフが現れる。ホットエアでダイ温度が100℃になるほど炙ってしまったが、そのまま動作しつづけていた。

手元にあった二つのArduino Nano Everyはそれぞれ校正値を読み出すと次のようになっていた。

DEBUG: 305k, offset :-31 gain :142
DEBUG: 305k, offset :-6 gain :144


 実機で比較テスト

tinyPDUテスト基板

 実際に温度を調節して試験してみよう。比較対象として、tinyPDUに接続してあるパルス温度センサLMT01の一つ(CH2)をQFNパッケージに張り付けた。 

LMT01は高精度ADC内蔵、2端子カレントループ、温度データを約100ms毎にパルス数で出力するという面白いセンサ。-20度~90℃範囲で±0.5℃の測定精度とあるので、用途的には十分すぎる。(ただし割り込み管理が甘いとパルスカウントの取りこぼしで正確な温度を示さないことがある)

テストプログラム。CH1、CH2はLMT01。CH2はMCUに張り付けている。

 緑色はLMT01で、青緑が内蔵センサ出力。内蔵センサ出力は1℃刻みなので階段状に遷移していく。
 庫内が冷え切る前に冷却を停止し、庫内に置いた5Wのヒーターと、小さな空冷ファンを作動させながら様子を見た。 空気による対流を作っているし、恒温動作はしていないので熱容量の差がオフセットや追従速度の変化として出ている。
 この温度範囲では温度変化の傾向はよく一致した。 基板温度を知りたい分には何の問題もないだろう。

その他

 新しいAVRのSIGROWは、XMEGAでいうProduction Signature ROW領域。XMEGAのものと比較するとシンプルに整理されているが、10バイトのシリアル番号(ユニークID)が取得できるので、いろいろと使い道が考えられる。

2021/01/24

新しいAVRのメモ(2020~)

新AVRのラインナップが増えたので整理した。(2021年更新)

 現時点でラインナップに上がっている新しいAVRのシリーズの周辺機能を、旧来のものと比較してみると次のようになる。(TinyAVR-2はこれを書いていた2月時点ではまだ評価ボードの出荷のみだった) 


AVR-DA/DB TinyAVR-2 共通項

・12ビットADCを内蔵した
・Vref電圧が使いやすくなった(ADCのビット数に合わせた値に)
・バス数の増加


TinyAVR2

・USARTが2chとなった
・プログラマブルゲインアンプ(PGA)を内蔵。
・DACは外部出力が削られた(内部ではADCやアンプに使える)

AVR-DA
・全電圧範囲で24MHz駆動できる
・10bitDAC搭載

AVR-DB

・DAの特徴に加えアナログ機能へ特化。OPAを3つ内蔵 ただし外部DAC出力とタッチ検出機能は削除
・主クロックに外付け水晶が使える(XOSCHF)
・ポートCのI/O電源電圧は独立して設定できる(双方向レベルシフトできる)

 新シリーズはどれも、アナログ機能の高精度化が施された。もともとXMEGAは12bit SAR ADCだったけども、レジスタ構成は結構違うし、Vrefなどの構成を見るとPICへ寄ってきているように見える。パッケージはDIPまであるので入門もしやすい。

 TinyAVR-2は3㎜角のパッケージでもUARTが2ch使えて、12bitADCが載っている。Tinyと名がつくがCPU仕様は乗算器含めて共通なので、メモリとROM容量以外の処理能力はmegaAVRと一緒だ。

 AVR-DA/DBはmegaAVR-0の上位互換となる。ピン互換もあり、ペリフェラル/ROM/RAMは増加し、64ピンパッケージが用意されている。 一番は内蔵オシレータへ手が加わり、電圧を気にせず最大周波数で動かせるようになったこと。(XMEGAでも最大クロック時には2.7Vが下限だった) ※ただし、DAはDBと違ってXOSCHFは無い。

 トラ技2021年4月号によると、コア部はレギュレータで別電圧とのこと。今までのシリーズとはコア設計が変わっているようだ。

 5V単電源でも動作し、集積度が低く頑丈なMCUが必要な領域というのは存在する。
ここまでくるとDMAを駆使して多チャンネルのバス通信処理をオフロードさせたくなってくるけど、今ならXMEGAの立ち位置をカバーしたSAMシリーズが第一候補になるだろう。 

AVR-DD(2021年追加)
TinyAVRサイズのAVR-DAのようだ。最大RAM/ROMサイズは8kB/64kBとなっている。

2021/01/20

電源管理モジュールの製作

2021年が始まった。去年も仕事はあったけれど、納品先に実際に出向いたのは一度だけだった。 日常がじわじわ侵食されていく中、今年はどうなることだろう。

  そういう状況下では、実験装置の構成を、どこでも誰でもできるようにしておくという作業がたくさん出てくる。 最小限の装置でPC単体での遠隔開発が行えるような手段。似たようなものはお仕事でもワンオフで何度か作ってきて、今までも役立ってくれている。ということで昨年は仕事の合間に組み込み部品としての試作をいろいろ行っていた。

 実際のところ、単体ではマイコン付きFETとシャントモニタでしかない。最近遊んでいるTinyAVR-0をMCUとして載せている。

機能としては以下のとおり。

・電源ONOFF制御

・INA226による0.5mA単位 ~4A程度までの電流測定、アラート通知

・電圧(スイッチ前後)の測定  セルフチェック機能

・コマンドサーボのようなデイジーチェーン接続

・拡張性

端面スルーホール加工にしてみた。他の基板への実装も簡単。

USB端子がついた基板は、TinyAVR-0つきFT234Xが載ったUSBシリアル変換器。UPDIプログラマ化できる

試作例1  試験コントローラ

試験用冷蔵庫に入れて、庫内で電源制御や温度監視をさせてみた。

温度センサにはLMT01を複数繋ぎ、庫内や測定対象に取り付ける。

制御例。MegunoLink上でプロットと電源制御を行った例。



試作例2 試作OBC基板の電源制御、モード管理、状態監視

開発中にOBCの電流値を参照したり、電源制御段階ごとの異常検知や、ブートモード切替などをソフトウェア上から行える。実装と冗長性の検討が長引いて回路図段階で何回もやり直したおかげか、試作一号機はとりあえず元気に稼働し始めた。 

 たいていのシステムには複数の機能別ボードや異機種コントローラが内包されているものだけど、それらの動作を最適化しながら、HILS的なシステムを作りあげるのは結構大変。
 個人的に、まずはベースバンド部、アプリケーションプロセッサ、ストレージみたいなまとまりを作りこむために、共通化配線とI/F基板1つでPCにつないで開発できることを目標としている。(電力規模100mW~1W以下)