2018/12/20

CAL.4809の開発(2) ケース試作

CAL.4809のためのケースを設計してみた記録。 

21世紀のかまど。 マインクラフト感がある。

思考する速度で試作したい



 3Dプリンタを導入した。
個人的に初めて3Dプリンタ造形物のデータを作って、出力してもらったのが2012年頃だったので、すでに6年もの歳月が経っている・・・。 自己所有する機運が高まるのにだいぶかかった。 どうもハイプ・サイクル的な波が落ち着いた頃に導入する傾向がある。

 いろいろ検討してみた結果、今年出た新型、Flashforge Adventurer3に決めた。 完成品で箱なので、机の下に設置しても大丈夫なのが決め手。
 動作音は静かなインクジェットプリンタと炊飯中の炊飯器のファン音を足して二で割った感じ。 静音を謳うだけあってほとんど気にならない。
 Z軸キャリブレーションだけで快調に動いている。

 高速試作環境のために導入したわけなので、Fusion360に慣れる目的でCAL.4809の外装を試作してみた。 3Dモデリングも久しぶりだが、割と覚えていた。


 基板部分のデータはKiCadからエクスポートしたSTEPファイルを取り込んだ。 その外側にケースを作成する。
外装は基板外形を1mm拡張して、壁の厚みを0.8mmとした。
 前後はNATOベルトを通すための隙間を設けている。
 側面はボタン、IrDAポートのための加工を行った。 ボタン部は素材の弾性を使う。
ケース自体は装着を考え、下部の時計用ベース基板に固定するための爪を側面に設ける。

 上のCAD図は既に5回くらいのバージョンアップの後のもので、最初はボタン部などの造形をせず、外形だけでプリントして検証し、徐々に細部の造形に移っていった。 単純な造形なら30分ほどで出力できる。 彫り込みというか刈り込みというか、とにかく手元にプリンタが無いと試行錯誤ができない。

途中から出力方向をひっくり返した。 ほぼサポート材
モデリングの過程で出力して確認するサイクルを経て、最終的に一番精密なモードで1時間半かけて出力した。
ラフトを剥がすのに便利な 時計のコジアケ。 買ったけど時計を全然こじ開けてない。
 この造形だと糸引きがすごかった。 サポート材は簡単にはずれてくれるけれど、なにせ細かいのでうっかりちぎりかねない。 カッターなどで慎重に剥がしていく。


基板との間に0.2mm間隙を設けていたおかげか、ピッタリはまってくれた。 ボタンも押せる。 FDM式でも薄い部品は配置や形状を工夫すれば大丈夫そうだ。

下部の基板は前後のベルト部の出っ張りと、左右側面から張り出したケースの爪できっちり固定できている。
 この小さなサイズでは、細かいフィレット等を形成してしまうと潰れたり変形してしまったので、単純なくり抜きや多角形のままでよさそう。 壁とボタンの造形の隙間は、0.4mm空けても潰れがちになるので、スリット部の面取りなどを試してみる必要があるかも・・・。

 ケースをつけても、コイン電池は簡単に取り出すことができる。

 表の文字盤面が手付かずで残っているが、メモリ液晶を保護する仕組みとしても風防は必要になる。最後にネジ止めで固定する蓋構造を検討中。

 DIYでありがちな肥大化しすぎた筐体を防ぐ  という、無意識に設定していた目標は達成できた。  個人的には基板を覆ってしまうと外装のデザインの勝負となるのでちょっと寂しい。

2018/12/19

CAL.4809の開発(1)

 2018年の新作。ATmega4809を使った試作ということで、CAL.430FR(2015年)の後継機を製造した。
  CAL.430FR https://blog.kemushicomputer.com/2015/03/cal430fr1.html

 今回はケースの作成にも挑戦してみたので、3Dプリンタでの製造は別の記事にまとめる。

 430FRはKiCadの練習で作ったけれど、それ以来3年間で設計、製造、実装した基板は結構な数になった。
 今年は大きなプロジェクトも一段落したので、自分の趣味プロジェクトも原点回帰してみることにした。
3年半前の基板(左)と今回の基板(右)

シルクに印字したQRコード。思ったよりコントラスト不足で認識率が良くない 黒基板とかだとアリかも
 36mm角の基板サイズ、コネクタ位置等はCAL.430FRと同じだが、マイコンはATmega4809にして、新たに赤外線トランシーバーを載せた。IrDAにした理由はUSARTにモデム機能があったからというだけだけれど、一応通信機能を持った基板となった。これで規格の波に数周遅れのスマートウォッチが作れる。
 サイドボタンは1つ削減して3つになっている。

12月に入り、夏以降 ほとんど音沙汰のなかったArduino Uno Wifi rev2がとつぜん販売開始となっていた。
日本では無線LANモジュールの認証作業の完了待ちらしいけど、そのうち入手できるだろう。 ボード外観を見た感じではレベルシフタが一つ増えていて、WifiモジュールとのIFまわりに仕様変更が見て取れる。

  リリースされたばかりのArduino Uno Wifi rev2向けのボード定義も配信が始まり、ボードマネージャ経由でインストールすることができた。

 ボード定義で面白いのは、ATmega4809としての定義と別に、端子レベルでATmega328Pをエミュレートするコンパイルオプションがあること。Wifiモジュールなどとの通信制御を遮蔽しつつ、UNOと同じピン定義でプログラミング可能なようだ。

  デバイス定義を参考にして、自作ボード用の定義ファイルを作成してArduino互換として動かす環境を試験的に作ってみている。 4809は内蔵オシレータが20MHz品と16MHz品があり、今までは20MHz品の流通が主だったので、クロック周りは20MHzとその分周比にあわせて定義を追加する必要があった。 電源が3Vのコイン電池なので、ボード定義でクロックは5MHzとし、1.8Vまで動作できるようにする。 BORなどはヒューズビットにあたるので、書き込みの際はプログラマで予めセットしておく。

今のArduinoIDEでの書き込みはコンパイル済みバイナリをスケッチフォルダに出力できるので、出力されたバイナリをATmelStudio7のツールで呼び出し、PICKIT4を使って書き込んでいる。



 IO回りやUART,SPIなどは普通に動かせていて、CAL.430FR用に作ったスケッチのIO番号だけ振り替えてそのままメモリ液晶を動かすことができてしまった。

 SPIの加速度センサとの通信がうまくいってないけど、とりあえず表示まで確認した。
4809自体は既存のAVRよりも低コストで使い勝手が良いので、Xplainedシリーズのようなデバッガ付きで最小限の評価ボードとして出てくれると良いなぁ。

2018/10/24

道具の更新




 HAKKOのIHはんだごて、FX-100を導入して2ヶ月ほど経った。
FX-951から乗り換えなので、両者の差異を書き出してみた。



小手台はコテ検出等の配線も無くなり、コンパクトで置き場を選ばなくなった。
(本体は結構大きく重くなった)
 立ち上がりは早く、コテはさらに細くなって持ちやすい。
 コテから持ち上げたときや小手先の温度変化に対して、かなり機敏に温度制御してくれる。 スリープ、シャットダウン、復帰も軽快。

 だんだんとRF特有のスルーホールだらけ多層基板などを手がはじめているので、無限に吸われる熱との戦いになる。  小手先としては、主にC型の大きいタイプを使うが、足の出ていない小さいQFNやUEW作業では小さい小手先に交換している。

 FX-951を全く使わないかというと、もっと熱容量の大きい小手先に付け替えて、表面実装以外のはんだ付けに使っている。


 今まで仕上がりは目視とビクセンのマルチモノキュラー4x12にルーペスタンドをつけて確認していたけど、夏にHOZANのL-50を中古で手に入れた。
一昔前の構成のため、付属していた照明は蛍光灯式ですでに寿命を迎えていた。 あとから安いLEDリングライトを取り付けた。

追記

倍率0.5倍のコンバージョンレンズを入手。

焦点距離を2倍にすることで、系全体の倍率が半分になる。 作業時の姿勢が改善した。
 倍率5倍相当で視野が直径36mmに広がり、QFP100が余裕でつけられるようになった。 10倍だとちょっと狭くて、大きめのパッケージが付けにくかった。

 特殊領域の設計試作はあまり数が出ないのと、数が出る場合は専門業者の領域になるので、リフロー量産の方面には手を出していなかったけど、そろそろ整備していきたい。

2018/08/24

ATmega4809(megaAVR0)を試す



megaAVR 0という新しいAVRシリーズを試してみた。
 小さいパッケージなのに、UARTが4本もあるのが気になったのがきっかけ。
登場すると噂のArduino Uno Wifi rev2 にも採用されるらしい。

 簡単にデータシートを眺めてみると、アーキテクチャはXmegaシリーズを簡素化し、動作電圧範囲を広げたもののようだ。
 CPUの命令セットはAVRxtと新しくなっているが、Xmegaで拡張された一部の命令(DESやUSBで使われる命令)が削除されていて、基本的に今までのATmegaとほぼ同じだ。
 コンパイラからは、先に登場した新しいtinyAVR0, tinyAVR1シリーズと共にAVR8Xと呼ばれて区別されている。

 CPU周りを見てみると、割り込みレベルなど、今までのクラシックなATmegaで足りないなと思っていたものがかなり強化されていた。 ArduinoAPIを再実装するとしたら便利そうなペリフェラルもだいたい揃っている。

データシート P6
 DMAは無いけれど、周辺機能にイベント駆動用の割り込みネットワークが張り巡らされているのがわかる。  できるだけCPUを介在させない使い方がいろいろ提案されているので、アプリケーションノートやマニュアルを読み込むことになる。

ピックアップした特徴
・データメモリ空間(64kB)に統合されたFlashROMとEEPROM
・RAM 6kB ROM 最大48kB (メモリ空間制限のため)
・デバッグ専用の端子 UPDIを搭載
・優先度付きの割り込み(NMIと2レベル)
・ピン単位の割り込み(かなり複雑になった)
・リセットコントローラ(ソフトウェアリセット用レジスタが実装され、リセット原因が何だったかもリセット後に読み出せるようになった)
・豊富な16ビットタイマ(4809では5基)
・16ビット リアルタイムカウンタ(RTC)
・豊富な非同期シリアル/同期シリアル(USART 4ch、SPI 1ch,TWI 1ch)
・内蔵クロックは最高20MHz(PLL)と32kHzの2種類。外部クロックは発振器と時計用水晶のみ
・ADCは10bit 16ch
・内蔵VREF電圧が5種類と多い(0.55V,1.1V,1.5V.2.5V.4.3V)
・カスタムロジック(CCL) LUTを4つ内蔵
・シグネチャ領域にシリアル番号(ユニークID)が追加

tinyAVR-0とmegaAVR-0は同じアーキテクチャで、差異はROM/RAM容量、ピン数、ペリフェラルの数だけのようだ。 UPDIにより書き込みポートが1ピンだけになったので、tinyAVRシリーズの少ピンな型番での性能強化が目立っている。
 8ビットDACの外部出力やタッチ検出はtinyAVR-1のみに搭載されている。

試作

物は試しということで、早速石を入手して遊んでみた。
これだけ積んでいても小ロット単価が328Pより安い。
(2560や644Pなどになると、もう32ビットマイコンのほうが安い)

用意した開発環境
・Atmel Studio 7.0
・PICKIT4

 PICKIT4は5月に買っていたが、その頃に比べるとデバイス対応が徐々に進んでいて、最新のユーザーガイドには、各種デバッグインターフェースのピンアサインリストが追加されている。 もちろんUPDIも対応済み。
更にAtmel Studioでもちゃんと使える。 PICは概念になりつつある(?)

 実験用基板はQFNパッケージ用で作成。 デバッグ用のGHコネクタにUPDIとUART0、VDDを引き出し、他にLEDと32.768kHzのXT用パターンとSMDの発振器パターンを載せて最小限の構成とした。 リセット端子も、GPIOとして利用できる。マイコン動作に必要な受動部品は3つのバイパスコンデンサのみということになる。
 パッケージの外周に1mmピッチの手半田用パターンを設けているので、後で好きなように引き出せる。


試作基板は5x5cm角としては面積が余ったので、いくつかSHコネクタ用のパターンと、SPIROMパターン、PICKIT4の端子変換基板を相乗りさせている。 各パターンは、自前のPCBカッター(HOZAN)で切り出し加工した。

PICKIT用変換基板




UPDI


PICKIT4とは、UPDIで接続する。 1-Wireの半二重UARTプロトコルなので、必要な結線はVDD,GND,UPDIの三本だけだ。 (VDDは書き込みの際にターゲット電源を認識する関係で必要だが、電源供給はしてくれない様子)
 MPLAB SNAPなど、PICKIT4と同世代の書き込みツールが登場しているけれど、AVRへの書き込みの対応状況はそれぞれ違ったり、機能追加などが頻繁にあるため、MPLABXのバージョン毎にリリースノートを確認しよう。

Atmel Studio上での読み出し結果

Atmel Studio上でLチカも完了。 GPIOマクロはやはりXMEGA用なのでちょっと戸惑った。

動作周波数と電圧

 メインクロックには水晶発振子を使えないけれど、 内蔵オシレーターを最大で64分周することができる。 最高速度はレジスタで選択するが、16MHzか20MHzを選べる。
 16~20MHzでの動作は動作電圧が4.5V以上でないと動作保証されていない。
 3.3V固定で使うなら2分周して10MHz駆動が安全だろう。 5MHz動作なら1.8Vまで保証されるので、Ni-MHx2直の運用にちょうどよい。 

Lチカ

UARTまわり

ATmega4809はUARTが4基存在し、さらにピンの接続先は代替を含めると2系統まで切り替えて、ピンとバスの競合を抑えることができる。ボーレート生成の仕組みが変わったので、前と比べるとクロック精度をそれほど心配しなくてもよくなった。5MHz動作でも115.2kbpsをやり取りできる。

 これを利用して、デバッグ用のポートを基板上のヘッダに1基割り当てておき、別なUART機器をオルタネートピンに割り当てておくことで、UART1基を別の物理接続に利用することもできる。

MPLABでAVR開発を試す


 最近アップデートされたMPLABX 5.0も、ベータ版ではあるがAVRをプログラミングできるようになった。
 XC8もAVR対応が始まっており、2.0からベータ対応が始まっている。ただ、まだXC8 2.0でコンパイルすると、実機に書き込んだ後で挙動がおかしくなる。
 プロジェクト設定からAtmel Studioでインストールしたコンパイラを選択した場合は実機が正常に動作するので、しばらくアップデート待ちのようだ。



公式開発ボード

megaAVR系の開発ボードがいくつか登場している。
ATTYNY416 XPLAINED NANO
 https://www.microchip.com/Developmenttools/ProductDetails/ATTINY416-XNANO
ATMEGA4809 CURIOSITY NANO
 https://www.microchip.com/DevelopmentTools/ProductDetails/DM320115
AVR-IOT WG Development board  (ATmega4808)
https://www.microchip.com/developmenttools/ProductDetails/AC164160

いずれもUPDIプログラマとしてmEDBGかnEDBGを搭載している。 XPLAINEDはmEDBGで5V単電源。 CURIOSITY NANOのnEDBGはレベルシフタ、可変電圧供給機能をもっていて、ターゲット電圧をある程度変更できるようになっている。
 nEDBGはマスストレージとして認識され、放り込まれたHEXファイルを書き込む機能もある。
 AVR-IOTボードはATmega4808、センサ、クリプトチップ、Wifiモジュール(文章によると技適取得済み)が搭載されていて、Google Cloud IoT platformにデータを上げることができる。

追記(2019Oct)
有志によるArduino IDE向けの環境
Atmega328PベースのUPDIプログラマ  ”jtag2updi” https://github.com/ElTangas/jtag2updi
megaAVR ”MegaCoreX” https://github.com/MCUdude/MegaCoreX
TinyAVR ”megaTinyCore” https://github.com/SpenceKonde/megaTinyCore

2018/07/30

G4 Modケースの改修と更新(2018)



ワークステーションとして、PowerMac G4 QuickSilver筐体を自作機にして早10年。
 https://blog.kemushicomputer.com/2010/03/powermac-g4-dosv.html

 昨年Ryzenに換装してからの悩みが、6年経過したATX電源の更新問題。
ケースそのものはATX電源が取付け可能だが、すでに絶滅した古い背面ファンモデルに限定されるため、交換候補が無くなってしばらく経っていた。
 電源が選べないとシステム規模も頭打ちになってしまう。ということで内装工事を行い、まともなmicroATXケースとして改修した。


 ATX電源を逆さまに設置するため、対応するネジ穴と開口部を加工した。
軟鉄なので電動ドリルとハンドニブラでなんとかなる。

 新しいATX電源は、ENERMAX REVOLUTION DUO 750Wにした。
最新の電源だが、昔懐かしい背面ファンと底面ファンの2つを搭載しており、排気性能が高い。

電源を取り付けたところ。狙い通り底部ファンをケース内に向けることができた。

また、HDDとSSDの設置位置を底部に戻した。
側壁につけていた自作HDDブラケットを撤去したことで、マザーボード拡張スロット周辺の空間が広がり、ハイエンドGPUのリファレンスモデルを取り付けられるようになった。
ショートモデル縛りからの脱却
 今回はRadeon RX VEGA 56(MSI)にして、システムをAMDで統一してみた。 OCしなければ電力もそこまで喰わず、広帯域メモリを積んでいてGPGPUとして面白いモデル。 ようやくマイニング需要が落ちてきて、価格も下がりつつあった。

 電源には8ピンx2本を要求する。REVOLUTION DUOに2本ついているPCI-Eケーブルは最初から8ピン(6+2ピン)x2構成なので問題なかった。
 以前まではシステム全体のピーク電力を300W以下に抑えてきたけれど、これで放熱が間に合う範囲であればパフォーマンスを追求できる。

Radeon RX Vega 56 (msi)

 もともとPowerMacG4は中学生の頃、ナショナルジオグラフィックの広告でギガフロップスの単語とともに載っていた事だけ覚えていた。 調べ直してみると、G4が発表された99年当時、PowerPC G4のSIMD性能が向上し、民生用パソコンとして初めてスーパーコンピューター扱いとなったとある。  講演ではスーパーコンピューターに認定されたことで、アメリカの輸出規制にかかったことを自慢していたようだ。
  時は流れ、16年の歳月を経たスーパーコンピューター(?)筐体に、単精度の理論値で10テラフロップス超えのGPUを取り付けている。  FLOPSだけ比較した乱暴な解釈なら、G4が登場した当時の大型スパコンクラスタの性能に近そうだ。

 ミドルハイエンドのGPUは初めてなので、個人的にはピーク性能よりも負荷時の排熱が気がかりだった。 組み上げたあといろいろな負荷テストを行ってみたところ、GPUコアが制御値の上限75度を超えることはなく、ファンによる排熱は間に合っている様子。

 負荷試験の間、GPUのスロットから吹き出してくる温風に手をかざしていると、マイニング用にハイエンドGPUを並べた知人の部屋が夏になって灼熱地獄となった話を実感することができた(完) 

2018/07/21

デスクトップ地球軌道

1億分の1地球儀で遊ぶ



 昨年の年末、無印良品で販売されている白地図地球義を購入した。 



 実は昭和カートン製で、けっこうしっかりした作り。
 2種類の大きさがあったが、小さな1億分の1スケール(直径約12cm)のものを購入。

一億分の1スケールだと、1mmが100kmに相当するのでわかりやすい。

 宇宙スケールで物思いにふける場合、宇宙から肉眼で地球を見るときのスケールが気になることがあった。地球儀をスケールの基準として計算してみると、1億分の1の地球近傍空間はこんな縮尺になる。

  • ISS(低軌道) 地表から4mm
  • 静止軌道 約35.7cm
  • 月 約3.8m 
  • 太陽-地球系L1 15m

 静止軌道からの眺めを机の上に再現するならちょうど良さそうだ。

机の上で、静止軌道の位置に顔を置くことで、気象衛星の視点が得られる。
両目の視差だけでも1億倍すると6千km、経度にして9度ほど離れているので、片目で見ないと本来見えないはずの地平線の向こう側を見通せてしまう。  

 地球大気は1mm以下となり、 ISSの軌道も表面からわずか4mm。 
大半の観測衛星も1cm以内の低軌道に集中している。

 地球儀に輪ゴムを張り渡すと、任意の低軌道衛星の経路を模擬できる。 輪ゴムが赤道と成す角度が軌道傾斜角だ。 なお、きちんと円形に張るのは慣れが必要だった。
 冒頭の写真ではISSの軌道傾斜角を模擬している。 

 ここはひとつ、地球近傍軌道を巡るツアー旅行に参加していると仮定し、手持ちのカメラで地球を撮る構図を体感してみた。  月着陸以前の1950年代の予想であれば、現在の通信衛星の代わりに有人の大型通信基地が置かれていた静止軌道から始める。 


 静止軌道から地球全体を撮るには、35mm換算で70mm程度の焦点距離があれば大丈夫だった。 現在でいうと3倍ズーム機能付きのコンパクトカメラがあれば、画面一杯に地球を撮影できる。
 アポロ計画の有名な地球写真"The Blue Marble(Wikipedia)" は4万5千km彼方から80mmのハッセルブラッドで撮られたらしいので、 だいたい合っているようだ。

  静止軌道の10倍、45万キロ離れた月面から地球を画面一杯に映すには、35mm換算で800mm程度の望遠レンズが必要だ。 
 視点を逆にして、普段地球の重力井戸の底から我々が見ている月を画面いっぱいに撮るには、約3000mmくらい必要とされている。 地球は月の4倍の直径を持つため、単純に4倍大きく見えるということだ。
 丸々写す必要が無いなら、怪物じみたズーム倍率は必要なく、普通に300mm程度のズームレンズがあれば良いだろう。
 大気の影響を受けないので、地球から月を狙うよりシャープな画像が得やすいと思う。 
 観光客としては、ズームして地球を撮影するよりも、極域で月面と地球を一緒のフレームに収められるスポットが人気になりそうだ。地球の満ち欠けで、短期旅行プランの料金が変動するかもしれない。

実際に800mmで撮影した地球儀画像

観測画像で遊ぶ

 高画質の定点観測画像が高頻度で配信されており、白地図を飛び越えて本物の景色を手元で再現することができる。
 GoogleEarthや、ひまわり8号リアルタイムWebを画面に表示し、画面上の地球画像の直径を定規などで測り、距離と地球直径の比率(下の数値)を掛ければ画面から離れる距離が算出できる。
  • 静止軌道 地球直径の2.81倍
  • 月 地球直径の30.1倍
  • 太陽-地球系L1 地球直径の117.7倍

iPhone8でひまわり8号リアルタイムウェブを表示させてみると、地球の直径は43mmだったので、
  • 静止軌道 約12cm
  • 月 約1.2m 
  • 太陽-地球系L1 4.9m 
ということになる。
この縮尺だと、静止軌道はちょっと近すぎるけど、月やL1からの眺めをなんとか部屋の中で再現できる。
明かりを消して、壁に置いたiPhoneをこの距離から眺めると再現度が高かった。

ラグランジュポイントからの眺め


静止軌道や月からの眺めを堪能したので、次は地球近傍空間の探査機からの眺めを模擬してみた。
 太陽-地球系L1は、地球と太陽の2体の重力の平衡点となる領域で、太陽方向、約150万kmに存在する。 反対側の位置にあるL2とともに、わずかな推力があれば地球との位置関係を保つことができる。  
 このL1を巡る軌道には、太陽観測の使命を帯びた宇宙機が数多く投入されている。 その中でも、NOAAが運用するDSCOVRは太陽と地球を同時に観測するユニークな探査機だ。搭載された地球撮像カメラ(EPIC)によって、多波長で高解像度の地球観測画像を撮影している。
配信画像のタイムラグは約1日遅れだが、1時間おきの画像を閲覧することができる。 
https://epic.gsfc.nasa.gov/

 サイトでは地球との距離のほか、太陽と地球を結んだ線と探査機のなす角(SEV angle)が確認できる。
https://ntrs.nasa.gov/archive/nasa/casi.ntrs.nasa.gov/20150018272.pdf
実際にL1点に静止するのは力学的に不安定なのと、地球側のアンテナ視野に太陽が入り込み、太陽電波で通信が妨害されてしまう。軌道図を見ると、地球から見て宇宙機が太陽を横切らないように軌道が調節されていることがわかる。 (リサジュー軌道)


 iPhoneにDSCOVRのサイトを表示してみると、直径が34mmだったので、4m離れて観てみた。
L1のステーションの展望窓から肉眼で地球を眺める地球人という設定で、暗い廊下の先のスクリーンを見つめてみる。
 肉眼で観る月よりやや小さく、かろうじて雲の濃淡や明るい大陸が判別できた。

 天体観測の際、見かけの大きさは視直径で表現される。 予備知識無しの体験に答え合わせをすると、地球から月を観た場合は約0.5°で、 L1から地球を観た場合が約0.45°になる。 再現時の感覚は間違っていなかったようだ。
 最も、地球上でのんびり眺めるのと、数週間宇宙船に滞在し、地球を観測する機会がいくらでもある中で見るのとでは着目点がだいぶ変わるかもしれない。

 EPICの視野についてはサイトに詳しい技術情報がある。
https://epic.gsfc.nasa.gov/about/epic
 L1を巡る軌道の位置によって、地球の視直径は0.45~0.53°の間で変動するため、EPICの視野(FOV)は0.62°で設計されているとのこと。

 探査機の位置やカメラの仕様を探り、人間の視野に当てはめて空間を把握するのは楽しい。
 このへんはVRが普及したらもっと感覚的に体験できるようになっていくだろう。 まだVRリグを持っていないので、いつか試してみたい。 

2018/05/28

安価な基板ホルダーの改造


ネットで数百円で売っているとても安い基板ホルダー 
(基板といってもスマートフォンの基板修理用と謳われている)
小さい基板を手実装したり、卓上で固定して検査するときに重宝している。

 実装作業ではハンダ付けの際に基板の向きを変える場面が多いので、 今回はこのホルダーを改造することにした。 作業は単純で、ホームセンターで買った角回転台(75mm角)を取り付けるだけ。ドリルでネジ穴を開け、M3ネジで固定した。

台の裏側の回転台

 手の道具を持ち替えずに、基板を自由に回転させられるようになった。個人的にはかなり効率よく作業できると思う。
 小さめの基板に実装する場合、元から中央に空いた2箇所の穴でネジ止めし、回転軸を基板中央に寄せるほうが有利だったのだが、重心の関係でやや安定感が落ちてしまいこの位置になった。

2018/04/12

Raspi地上局の改修

屋外にRaspberryPi2のRTL-SDR鯖を設置して2年が経過した。  https://blog.kemushicomputer.com/2016/05/blog-post.html

最近は打ち上げた衛星のためにアンテナ特性を調整し、デコード実験等に使用している。


SDRの運用以外にあまり使っていなかったが、いい機会なのでオーバーホールを兼ねてRaspberry Pi camera (旧版)を搭載した。
 地上局の機能といえば、アンテナの監視も重要な機能の1つ。 ということで天頂のみを視野とした。 天板に設けていたガラス窓にカメラモジュールを設置する。 光学窓自体は2013年に製作してからずっと付けてあったが、長らく未使用だったし、ここ2年は熱防御板でふさいでいた。今回は熱防御板も簡素化し、ケースをアルミテープで覆うだけにした。

せっかく野外にカメラを設置するのであれば、やはり天体観測もしたい。
先駆者がいて、 meteotuxという比較明合成(コンポジット法)ソフトウェアがあった。
https://sites.google.com/site/meteotuxpi/home
撮影する時間帯を指定するだけで、数秒間の露出を合成して撮りためてくれる。 (残念ながら開発自体はここ数年止まっている様子)


 5分間の合成写真10枚ほどを更に合成したもの。 監視対象であるアンテナが写っている。
アンテナの上の明るい軌跡は春の1等星アークトゥルスだ。
 春霞で視界は良くないけれど、東京の空でも3~4等星くらいまでは写っていた。

(番外)
SSHアクセスをするときは、movaXtermを使っている。
 https://mobaxterm.mobatek.net/

登録したセッションをクリックするだけで自動ログインしてくれる。
ディレクトリ表示やXサーバー機能があり、リモートGUIもやろうと思えば出来てしまう。
(最初は初期のBash on Windows でアプリケーションをGUI表示させたりしていた)