2018/07/21

デスクトップ地球軌道

1億分の1地球儀で遊ぶ



 昨年の年末、無印良品で販売されている白地図地球義を購入した。 



 実は昭和カートン製で、けっこうしっかりした作り。
 2種類の大きさがあったが、小さな1億分の1スケール(直径約12cm)のものを購入。

一億分の1スケールだと、1mmが100kmに相当するのでわかりやすい。

 宇宙スケールで物思いにふける場合、宇宙から肉眼で地球を見るときのスケールが気になることがあった。地球儀をスケールの基準として計算してみると、1億分の1の地球近傍空間はこんな縮尺になる。

  • ISS(低軌道) 地表から4mm
  • 静止軌道 約35.7cm
  • 月 約3.8m 
  • 太陽-地球系L1 15m

 静止軌道からの眺めを机の上に再現するならちょうど良さそうだ。

机の上で、静止軌道の位置に顔を置くことで、気象衛星の視点が得られる。
両目の視差だけでも1億倍すると6千km、経度にして9度ほど離れているので、片目で見ないと本来見えないはずの地平線の向こう側を見通せてしまう。  

 地球大気は1mm以下となり、 ISSの軌道も表面からわずか4mm。 
大半の観測衛星も1cm以内の低軌道に集中している。

 地球儀に輪ゴムを張り渡すと、任意の低軌道衛星の経路を模擬できる。 輪ゴムが赤道と成す角度が軌道傾斜角だ。 なお、きちんと円形に張るのは慣れが必要だった。
 冒頭の写真ではISSの軌道傾斜角を模擬している。 

 ここはひとつ、地球近傍軌道を巡るツアー旅行に参加していると仮定し、手持ちのカメラで地球を撮る構図を体感してみた。  月着陸以前の1950年代の予想であれば、現在の通信衛星の代わりに有人の大型通信基地が置かれていた静止軌道から始める。 


 静止軌道から地球全体を撮るには、35mm換算で70mm程度の焦点距離があれば大丈夫だった。 現在でいうと3倍ズーム機能付きのコンパクトカメラがあれば、画面一杯に地球を撮影できる。 
 アポロ計画の有名な地球写真"The Blue Marble(Wikipedia)" は4万5千km彼方から80mmのハッセルブラッドで撮られたらしいので、 だいたい合っているようだ。

  45万キロ離れた月面の距離から地球を画面一杯に映すには、35mm換算で800mm程度必要だ。 単純に静止軌道と比べて10倍くらい離れているということでわかりやすい。月面は大気も無く、地球から月を狙うよりシャープな画像が得やすいと思う。 
 観光客としては、ズームして地球を撮影するよりも、極域で月面と地球を一緒のフレームに収められるスポットが人気になりそうだ。地球の満ち欠けで、短期旅行プランの料金が変動するかもしれない。

実際に800mmで撮影した地球儀画像


観測画像で遊ぶ

 高画質の定点観測画像が高頻度で配信されており、白地図を飛び越えて本物の景色を手元で再現することができる。
 GoogleEarthや、ひまわり8号リアルタイムWebを画面に表示し、画面上の地球画像の直径を定規などで測り、距離と地球直径の比率(下の数値)を掛ければ画面から離れる距離が算出できる。
  • 静止軌道 地球直径の2.81倍
  • 月 地球直径の30.1倍
  • 太陽-地球系L1 地球直径の117.7倍

iPhone8でひまわり8号リアルタイムウェブを表示させてみると、地球の直径は43mmだったので、
  • 静止軌道 約12cm
  • 月 約1.2m 
  • 太陽-地球系L1 4.9m 
ということになる。
この縮尺だと、静止軌道はちょっと近すぎるけど、月やL1からの眺めをなんとか部屋の中で再現できる。
明かりを消して、壁に置いたiPhoneをこの距離から眺めると再現度が高かった。

ラグランジュポイントからの眺め


静止軌道や月からの眺めを堪能したので、次は地球近傍空間の探査機からの眺めを模擬してみた。
 太陽-地球系L1は、地球と太陽の2体の重力の平衡点となる領域で、太陽方向、約150万kmに存在する。 反対側の位置にあるL2とともに、わずかな推力があれば地球との位置関係を保つことができる。  
 このL1を巡る軌道には、太陽観測の使命を帯びた宇宙機が数多く投入されている。 その中でも、NOAAが運用するDSCOVRは太陽と地球を同時に観測するユニークな探査機だ。搭載された地球撮像カメラ(EPIC)によって、多波長で高解像度の地球観測画像を撮影している。
配信画像のタイムラグは約1日遅れだが、1時間おきの画像を閲覧することができる。 
https://epic.gsfc.nasa.gov/

 サイトでは地球との距離のほか、太陽と地球を結んだ線と探査機のなす角(SEV angle)が確認できる。
https://ntrs.nasa.gov/archive/nasa/casi.ntrs.nasa.gov/20150018272.pdf
実際にL1点に静止するのは力学的に不安定で、また地球側のアンテナに太陽が発する電磁波が入射するため、通信が妨害されてしまう。軌道図を見ると、地球から見て宇宙機が太陽を横切らないように軌道が調節されていることがわかる。 (リサジュー軌道)


 iPhoneにDSCOVRのサイトを表示してみると、直径が34mmだったので、4m離れて観てみた。
L1のステーションの展望窓から肉眼で地球を眺める地球人という設定で、暗い廊下の先のスクリーンを見つめてみる。 
 肉眼で観る月よりやや小さく、かろうじて雲の濃淡や明るい大陸が判別できた。

 天体観測の際、見かけの大きさは視直径で表現される。 予備知識無しの体験に答え合わせをすると、地球から月を観た場合は約0.5°で、 L1から地球を観た場合が約0.45°になる。 再現時の感覚は間違っていなかったようだ。
 最も、地球上でのんびり眺めるのと、数週間宇宙船に滞在し、地球を観測する機会がいくらでもある中で見るのとでは着目点がだいぶ変わるかもしれない。

 EPICの視野についてはサイトに詳しい技術情報がある。
https://epic.gsfc.nasa.gov/about/epic
 L1を巡る軌道の位置によって、地球の視直径は0.45~0.53°の間で変動するため、EPICの視野(FOV)は0.62°で設計されているとのこと。

 探査機の位置やカメラの仕様を探り、人間の視野に当てはめて空間を把握するのは楽しい。
 このへんはVRが普及したらもっと感覚的に体験できるようになっていくだろう。 まだVRリグを持っていないので、いつか試してみたい。