2020/08/29

Raspberry Pi High Quality Cameraを試す



 ソニー製の1/2.3型 12Mピクセルのセンサモジュール(High Quality Camera)がPi Cameraのラインナップに加わった。
 
 個人的に手持ちの産業用ズームレンズを評価するのにちょうどよさそうなので入手してみた。 背景としてはCマウントレンズがガラクタ箱の中でなぜか増殖しており、我に返ってみれば、Cマウントレンズ沼の中に膝まで浸かっているのだった。

 1/2.3型といえばハイエンドスマートフォンでもおなじみのフォーマットだけれど、フルサイズ比で倍率は約5.6倍となる。同じ画を撮るための焦点距離が短くて済む利点がある。OlympusのTGシリーズや、Nikonの超望遠コンデジなど尖った製品も多い。
 カメラとして、このクラスのセンサでレンズ遊びをするなら、中古市場でPentax Qシリーズを手に入れて、各種マウントアダプタを漁るほうが満足度は高いかもしれない。 

 センサ基板はしっかりした金属製マウントに取り付けられている。三脚穴もついておりテストしやすい。バックフォーカス調節リングが取り付けられており、Cマウントレンズ毎にバラついている無限遠点を微調整して合わせることができる。単焦点レンズでは不要なこともあるけれど、特にズーム機構を持つレンズではフォーカスリングの表示と一致させる調整が必須となり、マウントだけでもかなりの価値がある。
バックフォーカス調節リングは、マウント上のマイナスネジを緩めて、すこしテンションが無いと動き始めないので注意。

 IRカットフィルタもついているが、これはユーザーが取り外すこともできるようになっている。ただし外すと保証は受けられないようだ。


 基板とマウントは低粘着シートを介して封止してあり、光と埃等の侵入を防いでいる。
基板とマウントのネジはシリコーンスペーサだけで固定されているため、レンズの荷重を基板側のネジ穴で支える構造はやめたほうがよい。

カメラシステムの作成

 個人的には屋外のRaspi地上局に接続して、星空を連続撮影する全天撮影カメラにしてみたいが、まずは使い勝手の良い実験用システムの構築が必要だ。
 今回は手持ちのPi zero Wをベースに、ワンチップLinux時代のネットワークカメラとして使い勝手を考えてみた。 3Dプリンタでフレーム部品を印刷し、ジュラコンスペーサを継いで組み上げる。一年前にも、まったく同じようなことをやっていた


 底面5センチ角の直方体として、Pi zeroを入れたケースを中央と後部の底面板にはめる形で固定する。これでUSBケーブルで給電するだけで、Wifi経由で操作できる軽量なレンズ交換式カメラモジュールとなった。空いた空間にモバイルバッテリを固定すれば、完全なワイヤレス動作が可能。

ただし、基板にフレームを固定しているのであまり重たいものは載せられない。

 試しにPi zeroW上で WebRTC Native Client Momo を動作させながらテスト撮影をしてみた。この構成だと消費電力は 1.5Wほどで済む。 
 RaspistillではHQにおいて200秒以上の露出時間が取れるとされる。ただし、AWBとAGCが有効だと数フレーム撮影する必要があってやたらと時間がかかってしまうので、AWBとAGCを無効化してから撮影するように書いてある。

産業用レンズによる画像作例  

冒頭の写真は、Cマウントのレンズとして、中古で入手していたSpacecom社の手動ズーム・フォーカスレンズ(16~100㎜)を取り付けたもの。
 1インチセンサ機用のレンズだが、1/2.3型センサを取り付けて、35㎜換算するとだいたい128~800㎜のズームレンズとなる。金属製でずっしりとした重さがある。
 絞り解放は明るいけれど、代わりに焦点出しにものすごい苦労する。 ズームレンズがF5.6になる理由が分かってくる。このレンズの真価は、望遠端でレンズ前1mにピントが合うこと。FA向けだけあって、超望遠マクロとして、ワーキングディスタンスを確保しながら拡大撮影する用途にも使える。
 
  1mの距離から撮影したもの。
マクロで基板写真を撮ったもの。
遠くの基地局アンテナ


簡易HDMIカメラとして

RaspberryPiのHDMI出力を、最近数千円ほどで安価に出回っているUSB接続のHDMIキャプチャにつなぐことで、モニタを直接用意せずにFullHDのUSBカメラとして運用することもできる。 このドングルはUVCデバイスとして認識されるため、特別なドライバ等は必要ないのが利点。



2020/06/07

車載冷凍庫で簡易低温環境試験

 作ったものを投入してスイッチを入れると、温度に関連する不具合が観察できる不思議な箱を作ってみた。

 一品物の装置の動作確認をするとき、極端な温度環境下の挙動を調べておくことで防げるトラブルは結構多い。それは半田の品質だったり、受動部品の定数だったり、ハードウェア設定に起因するソフトウェアの挙動だったりする。とある案件で、外部から提供されたファームウェアがバージョンによって全く違う温度挙動を示したのにはだいぶ苦しめられた。
急冷スプレーでも確認はできるけど、再現性のある試験には使いにくい。

 本格的なサイクル試験は環境試験装置の出番なので、以下の確認だけを目的とする。
 コールドスタート試験、不良個体のスクリーニング。
 温度センサの動作確認。
 クロック回りの回路の定数調整
 低温におけるプロセッサの内蔵OSC周波数などの観察

 DIY的な手法でいろいろ検討した結果、低価格でマイナス10度以下の環境を作ることに絞ると車載冷凍庫というカテゴリが残った。
 ペルチェ方式は冷却効率が悪いため除外した。

車載冷凍庫の選定

 現在入手できる低価格な車載冷凍庫のスペックはおおむねマイナス20度までの冷却能力、1℃刻みの操作パネルという共通点がある。コンプレッサー式なので小型とはいえA3対応の大型プリンタ程度の場所を占有する。加温機能が付くと値段が数倍になるので、熱サイクルが必要ならなんらかの熱源を後から設置することにする。

 なおこの手の製品、Bluetooth対応とは書いてないけれど、海外で調べるとアプリ対応を謳っており、その名残りでBLEビーコンが検出できることがある。念のためBluetoothモジュールは基板から除去しておいた。

 小さめの圧力鍋なら余裕で入るので、簡易熱真空試験装置にも転用できそう。


 動作音はとても静かだが、冷却中はコンプレッサの振動があるため、設置場所によってはゴム足などをつけて防振したほうが良い。
 12V系ということもあり、普通にオフグリッド生活で重宝しそう。 最近マキタから、似たような冷却能力でバッテリ駆動もできるパーフェクト製品が出てきた。

USB配線を引き込む

まず軽く試運転するために、USBポートを庫内に引き込んだ。 延長ケーブルの中間は銅箔テープとし、蓋が閉まるようにした。 この冷凍庫は周囲の壁に冷却パイプがぐるぐる巻いてあり、壁面に触れているものは庫内温度よりも冷やされることになる。 結露対策として、銅箔テープの上からカプトンテープを張り付ける。 

                             


試運転
 とりあえず制御回路には手を加えず、試験を行ってみた。
庫内には乾燥剤(電子乾燥式)とUSBハブ、各種試験機器を設置する。 被検体はオンボードに気圧/温度センサを搭載したマイコン基板。
除湿のため一晩おき、朝から冷却を開始した。昼に最低温度設定に到達したあと、冷却を止めて自然に温度が上昇するまで放置する。



 冷却が働き始めた後のランプレートは1℃/分程度だった。半日程度かけて段階的に温度を下げていったのが下のグラフとなる。温度制御は指定温度前後±2~3℃の変動がみられた。 運転を停止するとだいたい6時間で室温の8割まで戻る。


 被検体は庫内に接しているわけではないため、特に最低温度では設定温度より冷えにくくなる。

冷却し続けるには

 温度制御にはサーミスタが使われているが、サーミスタがつながるXHコネクタを基板から取り外し、代わりに10kΩの抵抗を取り付けると温度表示は-10度で固定される。
 これで-10度以下に温度設定をしておけば、運転を開始すると無限に稼働し続けるようになる。
 途中から連続運転すると、冷却面にて-30℃を確認した。(緑のグラフが冷却面、赤は冷蔵庫底部中央)
 

-30℃の時に運転をやめたときの冷却面の温度上昇率は、4℃/分と急峻だった。 蓋のシール部にケーブルを通しているため、蓋の閉まり具合も甘くなっているし、冷却部に銅箔テープで外部との熱入力接点を作ってしまっている。熱流入を押さえられれば、もう少し温度を下げられるかもしれない。
 あとは、試験体を効率よく冷やすため、冷却部から金属板を這わせて熱伝導させたり、断熱材をはめ込み、庫内の容積を減らしたりして、より冷えやすい環境を作るとよさそうだ。

2020/05/30

Arduino CLIの導入

Arduinoのコマンドライン環境 arduino-cli を触ってみる。

屋外設置のRaspberry pi3A+に導入し、接続した独自ボードに書き込みができる環境を構築してみた。 結論から言うと、一度コンフィグが済んでしまえば、コンパイル、アップロードはとても快適。 

手順を調べた時の環境 (2020年4月)
実行環境 :  Raspberrypi 3A+ , Raspberry pi 3B, RaspberryPi4B(4GB)
OSはRaspbian Burster(v7)で共通

バイナリ: arduino-cli_0.10.0_Linux-ARMv7.tar.gz
SSHターミナル:MovaXterm (Windows10)
ボード: Arduino Uno,  Arduino互換機 (Sanguinoベース)

最初の工程は大まかに4つ (2020年5月現在)

1 最新バイナリを任意のディレクトリに設置。バイナリはPathを通しておく
        RaspianだとLinux ARM 32bitでよいはず(そのうち64bitバージョンになりそう)

2 初期設定
       作業フォルダの設置
        Configファイルの初期化(ホームディレクトリに.arduino15が生成される)
                 $arduino-cli config init    
3 ボード関連のインストール 
       ボードインデックスの初期化
            $arduino-cli core update-index
        (確認)インストール可能なボード定義一覧のリスト表示
                 $arduino-cli core search
        ボード定義のインストール (リスト表示したIDを指定)例えば、
                $arduino-cli core install arduino:avr
        (確認)インストール済みボード定義の表示
                $arduino-cli core list
4 コンパイル、アップロードのテスト
        スケッチの作成
             $arduino-cli sketch new  test
                (ホームディレクトリにtestという名のディレクトリと、同名の.inoファイルが生成される)
        コンパイル(Ardiono UNO向け)
                コンパイルはボード名とディレクトリ名を指定するだけ
                成功するとアップロード用のバイナリがスケッチディレクトリに生成される
            $arduino-cli compile -b Arduino:avr:uno test
        アップロードのテスト (ボードをttyUSB0に繋いでいるとする)
                $arduino-cli upload -p /dev/ttyUSB0 -b arduino:avr:uno test
         
        (コンパイルできたら)何もしないスケッチなので、blink等をtest.inoに記述してみる
          ライブラリは、従来通りにスケッチが保存されるディレクトリにlibrariesフォルダを作成し、その中に置くだけでよい。                                
    
(任意) サードパーティのボード定義の追加、環境設定
        .arduino15内のarduino-cli.ymlの編集
              スケッチ設置場所の指定(デフォルトはホームディレクトリに生成されるArduinoフォルダ)
            (任意)additional urlsへ ボード定義の追加
             その後のインストール作業などは手順3以降の手続きを踏襲
     
  最初はコンパイルやアップロードのボード指定、ポート指定などがとっつきにくいが、随所でヘルプ(-h)を確認しながら慣れるしかない。コンパイルとアップロード回りはたくさんのオプションが存在する。
 
 ターゲットが固定であるなら、board attachでスケッチとボード、ポートを紐付けておくと楽。

     ボード定義には、名前のほかに、オプションで動作周波数やマイコン型番をリスト選択できるものがある。boardコマンドで確認してみよう。
    あらかじめarduino:avrをインストール済みであれば、MegaやPro miniがそれにあたる。
インストール済みのボード一覧を表示
            $arduino-cli board listall (インストールではなくリストオール)
ボードの詳細を確認(Arduino pro miniの場合)
            $ arduino-cli board details arduino:avr:pro
            Board name:     Arduino Pro or Pro Mini
            Required tools: arduino:avr-gcc                   7.3.0-atmel3.6.1-arduino5
                            arduino:avrdude                   6.3.0-arduino17
                            arduino:arduinoOTA                1.3.0
            Option:         Processor                         cpu
                            ATmega328P (5V, 16 MHz)         ✔ cpu=16MHzatmega328
                            ATmega328P (3.3V, 8 MHz)          cpu=8MHzatmega328
                            ATmega168 (5V, 16 MHz)            cpu=16MHzatmega168
                            ATmega168 (3.3V, 8 MHz)           cpu=8MHzatmega168
オプションとして、動作周波数の設定とマイコン型番の組み合わせが確認できる。
コンパイルやアップロード時に指定するときは以下のようにcpu=を追記する。
            $arduino-cli compile -b arduino:avr:pro:cpu=8MHzatmega328  test

その後、Ubuntu20.04をインストールしたRaspberry pi4でも64ビットバイナリで同じように構築できた。    
CUIの良いところは、非力な環境でも使えること。Pi zeroやPocketBeagleでも実行できるので、SSH接続で書き換えられる超ミニマムな開発環境となった。Arduinoレベルでも開発環境の整備って大変なので、VMイメージやddしたSDカードイメージとして管理できるのは楽。

PocketBeagleを組み込んだボード 
性能はPi Zeroとだいたい同じだがCortex-A8。アーキテクチャがオープンなのと、I/O用サブコアが混載されているので弄り甲斐がある

2020/04/06

屋外受信局の設備更新



 屋外にRaspberrypi2を設置してから、もう4年が経過していた。そんなに負荷をかけてないからか、SSHで定期的にメンテしていたけどSDカード不良になることもなくSDR鯖として動いてくれた。
 いままでの屋外BOXは入れ物の選択、構造、気象対策については問題なかったといえるけれど、小さくてコネクタも増設できず、ちょこっと試したい装置を取り付けるにしても取り回しが悪かった。なので今回は箱を大型化し、不満点の解消に努めた。

  • 設置性やコネクタ回りのハンドリングを改善
  • イーサネットHUBを設置
  • 外部装置への電源分配機能
  • 余ったスペースにボードコンピュータを設置

ボックス回り

AC100Vラインは屋外用の防水延長ケーブルをそのまま箱に導くので、延長コードの先が防水容器になった形。
 コンセント部はキャップ構造になっており、やや小さい外形でボックスに穴加工すれば、押し込むことで容易には引っこ抜けない構造になる。
 内部のACタップの配線を固定したあとで、ボックスとコンセント部の隙間はシリコンコーキングで充填する。

タカチのBOXは内部のベースプレートも一緒に購入して、ここに穴をあけてタイラップで様々な部品を固定することにする。
 内部の部品、ケーブルの設置基準は、簡単にベースプレートを取り外せること。(防水性にかかわる部品を除く)

縦置きとなるので、ケーブルは直下から取り出す。
 下部のどこかにベントホールを設けておく。 完全密閉状態だとプラケースということもあり、一度侵入した湿気が逃げられず、気温変化の激しい日に内部が結露して故障する。
 穴の場所は重力で水が抜けるような位置かつ、暴風雨で雨水が逆流しないような構造が良い。 ベースプレートの裏側などはおすすめ。設置場所によっては虫などの侵入を許すこともあり気を遣う。

足は屋外用マグネットベースにしたので、仮置きでもある程度固定できるようになった。

 電源回り

 ACアダプタまでは既製品の組み合わせで固めた。内部は短い延長コードと、USB電源付きの小型コンセントタップを設置。
 限られた容積を有効活用できるような配置にする。



 コンセントタップの5V電源は小型イーサネットハブとRaspiに供給する。24Vは外部用電源として疑似PoE基板につなぐ。
 屋外設置で真っ先にダメになりやすいのは電源部だったので、交換しやすくしておくことが重要。

 ネットワーク回り

単純に今まで屋外に這わせていたLANケーブルを接続し、内蔵したハブ経由で分配するようにした。ハブは5Vで動作するモバイル用のものを選定。発熱や電磁波放射は抑えたいので100Mbpsで妥協している。

ケーブル回り

 ちゃんとした防水コネクタもあるけれど、ペアで1ポート1万円程度はする。ケーブル側も径や防水性能について細かな確認検討が必要なのでちょっと手に余る。
 高級コネクタであってもなくても、設置場所を考えてなくて他所から水が伝わって腐食する事例、自己融着テープの巻き方ひとつで水の侵入を許してしまったりする事例がある。自然との闘いは知識と想像力、設計における継続的なトライ&エラーになる。

 今回は取り回しやすさ優先で行くので、ケーブル内外は短いLANケーブルを作成し、ケーブルグランドで防水処置とする。外に出たコネクタは、接続先のケーブルと中継アダプタで接続し、その後自己収縮チューブなどで防水処理する。 IP監視カメラの施工でよく使われる方式。
 今回はケーブルが通る程度の太さのケーブルグランドを使うので、通したあとでコネクタをカシメる必要がある。 取り回しや仕上がりを気にしないなら、コネクタごと通る大きめの穴を開け、防水粘土で埋めるほうが楽かもしれない。

 Raspi回り

防湿処理風景

今回はRaspi3Aを選択。 3Bでもよいのだが、あえてUSBハブにすることでUSB端子のレイアウトに自由度が増す。 基板の取り付け方向と垂直にコネクタを出す基板を作ろうかな…。
 Raspi2には発熱が少ないという利点があった。3は外気温15℃でCPU温度が35℃台と普段から高め。ギリギリ許容範囲だろうけれど、4は待機電流が大きすぎるのでヒートシンクと強制空冷が必須になるだろう。
 発熱は悪いことばかりではない。3月末に着雪があり、ちょっとした降雪試験になった。特に問題は起きなかったけれど、降雪中のCPU温度は20℃以下に下がっていた。
 着雪はある程度熱源があればすぐ落雪するので、積もった雪が凍って箱にダメージとなるのをある程度防いでくれる。


固定部を作り直した クロスダイポール

2020/03/05

UMPCもどきの製作3 構造のくみ上げ


UMPCもどきの2つ目の制作記事からまた半年が過ぎた。

 その間に、RaspberyPi4が国内入手できるようになっていた。が、電力設計などでまだ扱いづらいところがある。アイドル状態で結構温かくなるサードパーティーのヒートシンクを触っていると、専用のPMICが無いRaspiの弱点が目立ってきたように感じる。

 今回はBT接続の小型キーボードのデッドストック品の入手をきっかけとして、唐突にWaveShareのHDMI接続5.5インチOLEDモジュール(Raspi3用)のフレームを作成した。
 その流れを生かし、ハンドヘルド端末として骨組み構造をプロトタイプしてみた。

始まり

 中古で手に入れたキーボードはエレコムのTK-GMFBP029BKという製品。 日本語46キー配列。2012年にiPhone向けの英語配列モデルと同時に展開され、手持ちでライトなチャット入力用途とされていたもの。電源は単四電池x2なので経年劣化は無い。
 これが5.5インチOLEDディスプレイと横幅がぴったりだったので、フレームをつくってハンドヘルド端末を組み立ててみることにした。

5.5インチ HDMI液晶について

 手持ちの5.5インチディスプレイはHDMI接続、かつタッチ部はUSBなので接続対象を選ばないが、基板に直に組み付けられるのはRaspi3系統だけとなる。今確認すると、   Raspi4にも対応し、ケース付きになっている後発品も併売されている。

3Bと4Bを買えばすぐわかるけれど、両者はHDMI端子もだが、LANとUSBコネクタの配置まで異なっており、3B用のHDMI液晶キットは4Bではそのままだと使えないので、購入時には注意だ。

https://www.waveshare.com/product/displays/lcd-oled/lcd-oled-1/5.5inch-hdmi-amoled-with-case.htm
拡散されるとは思ってなかった写真

 フレーム側面にキーボードについていた展開式カバーを模擬した固定ヒンジを設けた。
フラットなキーボード端末を目指していたので、特に折り畳み機構は設けなかった。 バッテリ位置と基板の拡張性を考慮しなければ、PSIONのハンドヘルド端末ライクな形態もとれると思う。 

ディスプレイ部のフレームの横幅は144㎜で、幸運にもAdventurer3で出力できるぎりぎりの大きさだった。このサイズはベッドの僅かな傾きで四隅のうちのどこかの食いつきが悪くなり、一つの隅だけ剥がれて反り上がりが発生しやすい。そのため、1層目の品質を見ながら高さ調整を繰り返すことになった。
 このままでもいいけれど、バッテリを内蔵して持ち運びできるようにしたい。ということで、フレームにM3のジュラコンスペーサを立て、残りの筐体フレームを設計していった。
3回ほどリビジョンアップした後の形状

底部のフレームも何とか出力に成功。PETGなのでPLAよりは柔軟性がある


 最終的に、底部プレート+バッテリ上部のプレート、ディスプレーフレームの3層構造になった。キーボードは10Whのモバイルバッテリの上に乗っかる形で、自由に角度をつけられるようにした。

 筐体設計で考慮したのは、RaspberryPiの端子アクセスと拡張基板の搭載を邪魔しないこと、ばらばらに分解できること。バッテリへのアクセスも同様に解放されていること。入れ替えが効くよう、あくまでコンポーネントを一つにまとめているだけにとどめている。
手持ちした感覚は良好
造形が気に入っている英語圏の電子辞書とツーショット

 ひとまず形にすると、あれこれ改良点や機能追加が浮かんでくる。 すでに耐衝撃端末のようなバンパーをTPU素材でつくってみようとか、オリジナルキーボードをつけようとか、そういうことばかり考えている。ヒトはなぜハンドヘルド端末に心惹かれるのだろう…と、主語を無駄に大きくしながら、コモディティ化した市場とサイズ制限によるギリギリのスペックゆえに生まれる多様性の儚さに思いを馳せるのであった。

2020/02/10

スケーラブル植木鉢

 日々の開発の途中、息抜きで多肉植物のための自動照明植木鉢を作っている。単体で卓上栽培できる全自動化が目標だ。

動機

 多肉植物は、季節によって必要な日照量がかなり変化する。 また日本の多湿な気候ではかなりデリケートなものが多い。日照が少なければ徒長してしまうし、水の量を間違えても腐ってしまう。
 水はスケジュールに従い、むしろ水やりしすぎないようにすればいいけれど、日照管理は窓辺など場所が限られてしまう。 そもそも観賞したいのに、窓辺に遠ざけるのも悲しい。

 単純にLED灯で栽培する例はいろいろあって、多肉専用のおしゃれなLED照明(USB 5V給電)なども売っている。フレキシブルなLED灯を改造し、栽培灯の自作もしたけれど、手動で点灯管理する必要があり、一鉢しか育てられないため、株個体が増えてきた場合にその都度5V電源が必要になってしまう。 電源の問題はレイアウトの自由度に直結する。
システムのスケール問題を解決するには、初めから対応した設計が必要だ。
まずは、一株程度を植えられる容器を3Dプリンタで出力。個々のパーツをジュラコンスペーサで積み上げる方式。

コントローラは試作したAdafruit ItsyBitsy専用拡張基板を流用。単体で栽培時の環境モニタやリソース管理のために必要な拡張に対応している。
もともとデイジーチェーン方式のバス式接続規格の研究用にこしらえたので、この基板も多数の同規格の基板を連結することができる。システムとしては一つの通信バスでシーケンスを可視化し、異常なボードは電気的に切り離し、プログラムバスで一か所の接続点から全基板を書き換えできる。

 ItsyBitsyボードにはもともとNeopixel駆動専用のポートが用意されていて、DMAで点灯制御ができる。 ただし、今回は複雑なパターンを点滅させるわけではない。色温度調節、輝度調整、点灯、消灯制御がメインだ。
 スイッチも要らず、コントローラ一つでポットの数だけ照明をデイジーチェーンすることができる。スケーラブルなポットとして必要な要素だ。



 サンプルを実行した結果ゲーミングPCのように虹色に輝く多肉植物というサイケデリックなものが出現してしまった。直ちに単なる照明としてのコードに替える。
 16個のリングを輝度最大にすると500mAも引っ張る。ユニットが増えてくると、5V電源の容量、電源配線の許容値も検討しないといけない。
 幸い、半分以下の電流による輝度でも3㎝先で5000ルクスを確保できた。 徒長対策には十分な明るさがある。
 せっかく細かく調節できるので、時間に応じて色温度を変化させたり、輝度を調節して自然の日照を模擬するところまで実装してみたい。

2020/01/28

ISS軌道を撮る

天頂を通過するISS 380km分の航跡が写っている

 国際宇宙ステーション(ISS) の可視パスを撮り始めた。
 仰角が80°を超える好条件では、天頂付近でマイナス4等星近くまで明るくなる。

人々の暮らしの頭上を人類の宇宙基地が音もなく渡っていく。 第一宇宙速度で移動しているにもかかわらず、400㎞も離れると見かけの移動速度は航空機に近い。

参考:ISSの可視パスを出してくれる便利なサイト https://www.heavens-above.com
可視パスでフィルタをかけ、予報の中で仰角が50度を超える好条件な日を狙うと良い。

 三脚に設置したカメラでこの軌跡を撮るにはいくつか方法があるけれど、お手軽なコンポジット撮影を試みた。
 Nikon1 J5に1 Nikkor 6.7-13mmを付けて待ち構える。



この機種ではインターバルは最短で5秒、インターバルが遅延しない最大の露出時間は2.5秒となる。 換算18mmだと地平線から天頂までを映せるので、到来方向の空にカメラを向け固定し、撮影してみた。

撮影後は比較明合成をして完成。

11月21日
 最初の撮影は光害カットフィルタ(kenko スターリーナイト)のみでの撮影。急いだためピント出しに失敗したが、明るい点光源が強調され、ソフトフィルターと同じ効果をもたらした。拡大しなければ問題ない


1月21日
 プロソフトンAを入手したのでピントを出してから撮影。時刻的にはほぼ同一なのに、季節変化で空が明るくなっているのが分かる。


2回のパスを比較すると以下のようになる(Orbitronを使い、当時の軌道元期で比較)。 1月のパス軌跡がかなりまっすぐ。

軌道の途中から赤い線になるのは、地球の影に入ったということ。 この日は天頂通過後に日陰に突入した。 直前、ISSの反射光が夕焼け色に赤く変わり、あっという間に消えていった。低軌道衛星の夕焼けは短い。


 合成した画像の個々の破線は、2.5秒間にISSが移動した距離も表している。軌道速度は秒速7.66kmだから、露光する間にISSは約19㎞移動している。

 眼で追う場合、地平線近くで識別するのは至難の業だ。都市部なので、仰角が40度を超え、輝度がマイナス等級に達するあたりから周囲の星よりも目立ちはじめて気が付きはじめる。

1月のパスで破線を数えてみると、地平線近くは太陽光の名残りで明るく識別できないが、45個の破線を確認できた。天頂まで写したコンポジット画像には差し渡し1723kmの軌道が写っていることになる。

 この日も肉眼ではっきりと視認できたのは、ISSの仰角が金星を超え、距離が800㎞を切ったあたりからだった。

おまけ ISSの軌道高度変化(5年分)



ここ5年間の軌道要素から高度変化を算出して見てみると、高度410㎞前後に維持されている。