相乗り衛星の軌道を、Kerbal Space Programで再現してみた。
現実の軌道をいくつかシミュレートしてみる。 衛星の行き先は、わりと限られた範囲に集中している。
低軌道(300~400km)
CubeSat級の衛星にはHotな軌道。 わずかに存在する気体分子や電離した原子が抵抗となるため、半年ほどで大気圏に再突入してしまうが、それゆえデブリ化の危険がほとんどない。 断面積と重量により、軌道寿命の差が極端にひらく。 基本的には地球の影に定期的はいることもあり、電力収支、熱環境共に厳しい。
投入手段: ISSからの放出、低軌道観測衛星への相乗り。 最近はISSに直接装置を設置する例も増えてきた。
極軌道(太陽同期軌道)(600~1000km)
観測衛星の天国。 軌道傾斜角が赤道と直行するような軌道。 特に太陽同期軌道では数日~数週毎に同じ地点の上空を通過するため、地表をまんべんなく安定した条件で観察できる。
太陽と軌道円の角度によっては、数週間~数ヶ月は日照状態が続くので電力不足に陥りにくい。
初期のCubeSatをはじめ、数十キロ級のマイクロサットなどが数多く投入され、今も投入されている軌道。
ただし、軌道が高くなるにつれ軌道寿命が延びることになる。 多くの衛星が周回していることもあり、長い軌道寿命の中で、交差、衝突する可能性が無視できなくなりつつある。 現在ではデブリ化を防ぐための取り組みがはじまっている。
参考文献: http://www.spacenews.com/article/civil-space/4207665th-international-astronautical-congress-cubesat-revolution-spotty
楕円軌道(数百~数千km)
宇宙開発初期のロケットで多かった軌道。 モルニア軌道を除くと利用例は少ない。静止軌道へ投入される主衛星との相乗りで、トランスファ軌道で放出されるものは存在していた。
投入例としては、アマチュア衛星(Phase-3シリーズ)がある。 かつては数基のアマチュア衛星で、地球をカバーして通信しようという計画があった。
近地点が数百kmだと、ヴァン・アレン帯を毎回横切ることになり、荷電粒子によって電子機器や太陽電池などの劣化が早まってしまう。
衛星の軌道(有人含む)のほとんどは、機器の劣化を抑えるため、地球を取り巻く磁気圏に囚われた荷電粒子の帯の隙間を周回している。 磁気圏の隙間といっても一様ではなく、南太平洋上空にはヴァン・アレン帯が低軌道まで落ち込んでいていて、南太平洋異常帯(SAA)と呼ばれている。 この空域を通過中は、システムリセットが発生する確率が上がる。
静止軌道(3万6千km)
今のところ静止軌道には相乗り例はない。
対地静止といっても時折軌道修正が必要で、かつ軌道はすでに大型衛星で過密状態にある。インテルサットや放送衛星、気象衛星など、重要なインフラを担う大型衛星でひしめき合っている。
アマチュア無線の中継器という形で、静止衛星のサブモジュールとして搭載をすすめる計画は存在する。
月遷移軌道(数百~数万km)
月探査機の投入にあたり、地球軌道で行われるマニューバーの段階で放出されるもの。
月まで届く楕円軌道だ。 月との接近によって、より遠くへ飛ばされたり、近地点が変わって地球に落下したり、いろいろな末路が考えられる。
最近は、嫦娥5号の打ち上げに使われた3段目に、アマチュア無線モジュールが取り付けられた。 アマチュア無線家が月遷移軌道の遠地点 40万キロからのパケット受信に成功している。
http://moon.luxspace.lu/
このモジュールと第三段は一度の周回ののち、地球へ落下した。
地球脱出軌道 (人工惑星)
惑星探査機の脱出軌道に相乗りするもの。 第二宇宙速度で太陽をまわる人工惑星となり、基本的には戻ってこない。
熱環境は、惑星の影から出てしまえば、あとは常に日射が存在する安定した環境だ。
投入例:H-IIAによる惑星探査機(あかつき、はやぶさ2)への相乗り。
NASAは深宇宙チャレンジという形で、6Uサイズの相乗りコンペを計画している。
基本的にリソースが少ないので、相乗り案件は稀有。
地上から見ると、地球の自転速度が支配的なので、追尾も星を追うような形になる。
(某衛星相乗りでは、ビーコンを470万kmまで受信してもらえるとは思わなかった…)
外惑星・小惑星
探査機に相乗りして、向かった先で放出されるもの。 CubeSatサイズの探査プローブというイメージか。最近はNASAやESAが計画を発表している。
投入先: 火星探査計画、小惑星探査。
探査機の相乗りにもCubeSatのPod放出を利用する計画が進んでいる。
おまけ: KSP
画像に使ったのは、KerbalSpaceProgram(KSP)というゲーム。 ゲームと言っても、自分でロケットを組み立てて、物理演算環境で実際に打ち上げと軌道投入、軌道変換を行う事になる。最初は飛ばすだけでも結構大変だ。 初期状態では⊿Vといったパラメータがわからないので、感覚で軌道投入することになる。
Kerbal星系そのものは、現実と比べてだいぶ脱出速度や惑星の大きさ等がデフォルメされている。
ゲーム自体は緑の小人Kerbal星人を外惑星へ到達させるのが主目的なので、往還ロケットはもっとΔVを増やすためにクラスタ化/大型化することになる。 一度に打ち上げるのは難しいので、現実の宇宙計画のように、パーツを数回に分けて打ち上げて、軌道上で組み立てることが多い。
シミュレーションなので限界はあり、低軌道にいても数ヶ月で落ちる、といったことはないし、他の天体との摂動もないけれど、 惑星や月を利用したスイングバイ(加速、減速)をおこなえたり、ミッションについては現実の開発っぽい実装が追加されている(資源探査、燃料採掘、地球近傍小惑星)。
なので、内容については今後のアップデートが期待できる。
MODもたくさんあって、いろいろな機能拡張ができるけど、最低限だと組立中のロケットの⊿Vを計算してくれるKERや、自動制御を可能にするMechJebなどはおすすめ。
宇宙での移動は結構大変だなぁと、マニューバーポイントまでゲーム内時間を早送りしていると思う。
現実の軌道をいくつかシミュレートしてみる。 衛星の行き先は、わりと限られた範囲に集中している。
低軌道(300~400km)
CubeSat級の衛星にはHotな軌道。 わずかに存在する気体分子や電離した原子が抵抗となるため、半年ほどで大気圏に再突入してしまうが、それゆえデブリ化の危険がほとんどない。 断面積と重量により、軌道寿命の差が極端にひらく。 基本的には地球の影に定期的はいることもあり、電力収支、熱環境共に厳しい。
投入手段: ISSからの放出、低軌道観測衛星への相乗り。 最近はISSに直接装置を設置する例も増えてきた。
極軌道(太陽同期軌道)(600~1000km)
観測衛星の天国。 軌道傾斜角が赤道と直行するような軌道。 特に太陽同期軌道では数日~数週毎に同じ地点の上空を通過するため、地表をまんべんなく安定した条件で観察できる。
太陽と軌道円の角度によっては、数週間~数ヶ月は日照状態が続くので電力不足に陥りにくい。
初期のCubeSatをはじめ、数十キロ級のマイクロサットなどが数多く投入され、今も投入されている軌道。
ただし、軌道が高くなるにつれ軌道寿命が延びることになる。 多くの衛星が周回していることもあり、長い軌道寿命の中で、交差、衝突する可能性が無視できなくなりつつある。 現在ではデブリ化を防ぐための取り組みがはじまっている。
参考文献: http://www.spacenews.com/article/civil-space/4207665th-international-astronautical-congress-cubesat-revolution-spotty
楕円軌道(数百~数千km)
宇宙開発初期のロケットで多かった軌道。 モルニア軌道を除くと利用例は少ない。静止軌道へ投入される主衛星との相乗りで、トランスファ軌道で放出されるものは存在していた。
投入例としては、アマチュア衛星(Phase-3シリーズ)がある。 かつては数基のアマチュア衛星で、地球をカバーして通信しようという計画があった。
近地点が数百kmだと、ヴァン・アレン帯を毎回横切ることになり、荷電粒子によって電子機器や太陽電池などの劣化が早まってしまう。
衛星の軌道(有人含む)のほとんどは、機器の劣化を抑えるため、地球を取り巻く磁気圏に囚われた荷電粒子の帯の隙間を周回している。 磁気圏の隙間といっても一様ではなく、南太平洋上空にはヴァン・アレン帯が低軌道まで落ち込んでいていて、南太平洋異常帯(SAA)と呼ばれている。 この空域を通過中は、システムリセットが発生する確率が上がる。
静止軌道(3万6千km)
今のところ静止軌道には相乗り例はない。
対地静止といっても時折軌道修正が必要で、かつ軌道はすでに大型衛星で過密状態にある。インテルサットや放送衛星、気象衛星など、重要なインフラを担う大型衛星でひしめき合っている。
アマチュア無線の中継器という形で、静止衛星のサブモジュールとして搭載をすすめる計画は存在する。
月遷移軌道(数百~数万km)
月探査機の投入にあたり、地球軌道で行われるマニューバーの段階で放出されるもの。
月まで届く楕円軌道だ。 月との接近によって、より遠くへ飛ばされたり、近地点が変わって地球に落下したり、いろいろな末路が考えられる。
最近は、嫦娥5号の打ち上げに使われた3段目に、アマチュア無線モジュールが取り付けられた。 アマチュア無線家が月遷移軌道の遠地点 40万キロからのパケット受信に成功している。
http://moon.luxspace.lu/
このモジュールと第三段は一度の周回ののち、地球へ落下した。
地球脱出軌道 (人工惑星)
惑星探査機の脱出軌道に相乗りするもの。 第二宇宙速度で太陽をまわる人工惑星となり、基本的には戻ってこない。
熱環境は、惑星の影から出てしまえば、あとは常に日射が存在する安定した環境だ。
投入例:H-IIAによる惑星探査機(あかつき、はやぶさ2)への相乗り。
NASAは深宇宙チャレンジという形で、6Uサイズの相乗りコンペを計画している。
基本的にリソースが少ないので、相乗り案件は稀有。
地上から見ると、地球の自転速度が支配的なので、追尾も星を追うような形になる。
(某衛星相乗りでは、ビーコンを470万kmまで受信してもらえるとは思わなかった…)
外惑星・小惑星
探査機に相乗りして、向かった先で放出されるもの。 CubeSatサイズの探査プローブというイメージか。最近はNASAやESAが計画を発表している。
投入先: 火星探査計画、小惑星探査。
探査機の相乗りにもCubeSatのPod放出を利用する計画が進んでいる。
おまけ: KSP
画像に使ったのは、KerbalSpaceProgram(KSP)というゲーム。 ゲームと言っても、自分でロケットを組み立てて、物理演算環境で実際に打ち上げと軌道投入、軌道変換を行う事になる。最初は飛ばすだけでも結構大変だ。 初期状態では⊿Vといったパラメータがわからないので、感覚で軌道投入することになる。
Kerbal星系そのものは、現実と比べてだいぶ脱出速度や惑星の大きさ等がデフォルメされている。
ゲーム自体は緑の小人Kerbal星人を外惑星へ到達させるのが主目的なので、往還ロケットはもっとΔVを増やすためにクラスタ化/大型化することになる。 一度に打ち上げるのは難しいので、現実の宇宙計画のように、パーツを数回に分けて打ち上げて、軌道上で組み立てることが多い。
シミュレーションなので限界はあり、低軌道にいても数ヶ月で落ちる、といったことはないし、他の天体との摂動もないけれど、 惑星や月を利用したスイングバイ(加速、減速)をおこなえたり、ミッションについては現実の開発っぽい実装が追加されている(資源探査、燃料採掘、地球近傍小惑星)。
なので、内容については今後のアップデートが期待できる。
MODもたくさんあって、いろいろな機能拡張ができるけど、最低限だと組立中のロケットの⊿Vを計算してくれるKERや、自動制御を可能にするMechJebなどはおすすめ。
宇宙での移動は結構大変だなぁと、マニューバーポイントまでゲーム内時間を早送りしていると思う。
SpaceXの再利用ロケットごっこ |
Kerbal第二の月にて |
MODで海と大気の描画を綺麗にしてみた |