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プリンタブルサテライト、FabSat


    非実在衛星シリーズ第6回くらい目。 今回は軌道上にインクジェットプリンターを打ち上げる話。 というか、与太話。


発端は某衛星のDBMをつくっていたことに始まる。 DBMとはダンボールモデルのカッコいい呼び方(原典)。 紙で作る衛星の模型である。 衛星に限らず、実物大の模型は形状把握、広報にとても役に立つ。

そして3次元モデルから出力した各辺の寸法図を印刷していたところ、プリンタのインク切れに見舞われた。 モデルといえど作るのはめんどうだから、最近はやりの3次元プリンタで出力したいな・・・ と思ったところ、この話を思いついた。

 かつてほぼ未経験の状態で、一人で回路設計、基板パターン設計、エッチング、基板加工、ハンダ付けという、基板の製作をやったことがあった。 回路製作のニーズがあり、机には卓上ドリルがあるいい環境に恵まれて、いろいろな部材や工具を試していった。  翌日の動作試験のために、1日で全部やったこともある。 ぶっつけ本番ばかりだったけれど、趣味だったジャンク品の分解、改造遊びが現実の電子回路製作にも通用するんだ、ということを確認できた。 以来、似たようなことしかしてない気もするけれど… 
 一人で行う製造は最終成果物が現実の物体であるという点で、幅広い技能を要求される統合分野だ。
 もうさすがに基板加工まで人力でやるのは勘弁だが、最近パーソナルファブリケーションが隆盛しつつあるようでわくわくしている。 プリンタブルサテライトのアイデアも、Reprapのようなハンドメイド3Dプリンタに触発された部分がある。
この文章ではネタ考察として"紙っぽい衛星の印刷に限定したが、きっとロボットも印刷と同じくらい気軽に生産できる時代がくると思う。


Heavy-duty , no gravity
 衛星が構造計算、熱設計、各種試験といったレポートの山を築くのは、ロケットに乗る資格を得るためであり、その後も簡単には壊れることなく機能し続ける保証のためである。 これは輸送手段であるロケットが「飼いならされた爆弾」であり、恐ろしい火力の塊なのだからしょうがない。 あと、打ち上げたら二度と修理できないから、何としても壊れない、あるいは壊れてもバックアップがあるように冗長性を組み込もうとする。
 アメリカの原潜のマニュアルは、それを原潜に乗せたら二度と浮上できないほどの重さがあるとか。
 衛星でも例外は無く、天まで届きそうな書類、レポートが制作される。 CubeSatなら計画全体のハードコピーは余裕でCubeSatより重いはずだ。 こうして衛星は堅実な設計で、兵器並のタフさを備えて宇宙に飛び出す(ことになっている)。

翻って宇宙とは? 共有されるイメージは「無重量」「真空」。地球低軌道でいえば、いくらか放射線が降り注ぎ、すべてを劣化させる殺人的な太陽光を浴び、真空断熱され、赤外線のような輻射でしか熱が移動しない領域だ。


ただし、そこにはロケットの生む加速度も、振動も無い空間が無限に広がっている。 どんな弱い構造でも動かなければ壊れないで済む世界だ。 膜構造だって遠心力で引っ張ればちゃんと広がる。
 不定形の大規模構造物が宇宙でも有効なことは、IKAROSで実証されている。


軟弱な衛星はロケットの振動と加速度に耐えられないだろうけれど、だったら宇宙で作ってしまえば問題ない。そんなSFじみた発想です。

プリンタブル・エレクトロニクスとファブリケーション
 サンハヤトの感光基板をつかって電子部品の基板を制作したことがあれば、CADからフォトマスクをOHPシートに "印刷" したことがあるだろう。
 このまま電子回路もプリントできればいいのに・・・という思いは、近年実現しつつある。 プリンタブルエレクトロニクスが、徐々に現実のものとなってきている。 実現したかは知らないけど、電導インクによるインクジェット方式の回路パターン生成や、有機ELディスプレイの印刷、さらにはRFIDのプリンテッドアンテナといったものがすでに世に出ている。 最近だとトランジスタを3Dプリントで製作した例があった。
そのうち部品メーカーから部品をダウンロードするようになったら面白いのだが。 
衛星の
パーツを列挙して印刷可能かどうか考えてみよう。

太陽電池
太陽電池も、色素増感型は液体を塗布するような感じだ。 宇宙で耐えられるかは疑問だが、印刷はしやすそうである。
劣化したら塗りなおせばよいし。 この部分だけ衛星の自己修復に使うのもありかな…。 ビラを貼られまくったような外観の衛星を想像してしまった。木みたいに、寿命の来たパネルを廃棄すればいいだろう。 問題は分解者が存在しないことだけど…。 

アンテナ
アンテナも印刷可能だ。 八木アンテナみたいな印刷エレメントとか、回路アンテナといったものなら直ぐにできそう。 送受信に耐えるものができるのかは未知数だけれど。
バッテリー

フィルム電池を生産するならできるだろうか。 
宇宙ではスーパーキャパシタが使用可能温度の点で有利だが、キャパシタを印刷できるか? 難しそうではある。 
印刷できないものは、モジュールとして持っていくということで・・・。


冒頭の想像図にあるように、可能性を示すとしたら、A1サイズくらいで、単純な電波トランスポンダとして動作し、光圧制御で姿勢を変えるようなものを想定する。 それならインクジェットで印刷できそう。

あとはキューブサットに巨大な太陽電池をつけたり、宇宙で発電可能な太陽帆を印刷したり。 紙詰まりには注意である。



Satellite + Printable Electronics = Satellite Fabricator

これは打ち上げ用の非実在衛星工場。FabSatとでも言うべきか…。 ネタなのであえて自宅のプリンターをそのまま載せたイメージです。
 (後ろの衛星バスに凝り過ぎた感が)


 軌道を少しづつ変更しながら、紙に衛星を印刷し、軽く組み立てて軌道に放り出していく。 ネタじゃなければ、高性能な3次元プリンタになるだろう。 構造も紙じゃなくて、A.C,クラークの木星生物みたいに、モワモワした発泡素材で石鹸の塊みたいなものかもしれない。発泡ポリイミド。そもそもポリイミドって発泡できるの……?
 とりあえず機能が構造を纏えばよしとする。


FabSatとして必要な燃料と原料はタンクに内蔵されていることにする。 初期はどうしても印刷不可能な部品を搭載するとか、大規模になれば補給するという手もある。 ISSならぬISF(InternationalSpaceFab)。


フォン・ノイマンマシン

これらのネタ技術の延長線上にあるものは、宇宙で完結する衛星生産ラインであり、将来的には自己増殖マシンである。 宇宙なので資源は限られているから、小衛星にまで生産機能を付けることは難しそうだ。

だから当分はFab衛星だけ飼い慣らしておけば勝手に増えたりしないだろう(自己増殖マシン災害の防止は検討事項です)。


資源小惑星に投入して、小惑星の氷と微量元素を食べながら、印刷した太陽電池を残滓に貼りつけて発電して、生産基地を作ったり、植民地の保守点検をおこなったり。


―共産主義者がレプリケータを改造して、民主主義の小惑星に革命のビラを貼りまくるとか。 無重力で相手の発電パネルにビラを貼って息の根を止める衛星同士の闘い。 ビラがリングをつくった惑星、太陽系を脱出して、近隣の恒星に飛んでゆくビラとか。 印刷の夢は果てしなく広がってゆく―
 
そんなこと考えながら衛星モデルは組み上がっていくのであった。・・・ 

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